氷点以下の不安定条件に置かれたガスハイドレートの分解速度が異常に小さくなる現象である自己保存性は、ガスハイドレートを用いた天然ガスの貯蔵・輸送など、多くの応用が期待されることから重要な性質である。その発現機構にはガスハイドレートの分解により生成する氷がガスハイドレートの周りを覆うことが関係していると言われているが、温度・ガス種・添加物によって分解速度が複雑に変化することを説明できる、自己保存性の発現機構はまだ与えられていない。 今年度はエタンハイドレートについて実験を行い、原料水への微量電解質の添加が分解速度に影響を与えることを確認した。共晶点温度直下では分解が強く抑制され、これは電解質結晶の周りに生じる準安定な、移動度の高い水が氷膜の欠陥修復を促進するためと考えられる。一方、電解質濃度が比較的大きい場合は、共晶点温度を超えたところで一時的に速い分解が起こり、これは安定な電解質溶液が生成し、これは氷膜の一部を溶解して拡散経路を生み出すためと考えられる。 メタンおよびエタンハイドレートはいずれもこの共晶点温度近傍での分解抑制と促進を示すが、これらは構造I型の結晶構造を持つガスハイドレートである。そこで、構造II型であるクリプトンハイドレートについても実験を行ったところ、全く同じ共晶点温度近傍での異常性を確認できた。さらに、高圧天秤を用いて異なる圧力での分解速度を測定し、共晶点温度近傍での異常性は圧力にも依存しないことを確認した。 以上のことから、ガスハイドレートの自己保存性はガスハイドレート表面に生成した氷膜によって起こり、電解質による欠陥の修復や局所溶解などによる拡散パスの増減が分解速度を支配していることが明らかになった。
|