研究課題/領域番号 |
23360437
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
玄地 裕 独立行政法人産業技術総合研究所, 安全科学研究部門, 研究グループ長 (50292777)
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研究分担者 |
井原 智彦 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (30392591)
福田 早苗 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任講師 (50423885)
鳴海 大典 横浜国立大学, 環境情報研究科(研究院), 准教授 (80314368)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | エネルギー / ヒートアイランド / 健康影響 / 緩和策 / 冷房 |
研究概要 |
平成23年度に実施した調査に基づき夏季の実際の温度・湿度と主観・客観両面から疲労・睡眠を評価し、外部環境、生理機能、疲労と睡眠の関係性などの解析を行うことで、実際の日常生活における暑熱環境での疲労や睡眠の指標に基づく評価・解析を実施した。 まず、大阪府を対象としてアンケート調査を実施し、睡眠と疲労について屋外気温の変化により影響を受ける人口の増加数を定量化した。 夏季及び冬季に外気温と睡眠や疲労の関係に関する主観申告調査を実施した結果、夏季には1℃の気温上昇によって、共に0.8%の睡眠と疲労の有症者が増加し、冬季には1℃の気温低下により0.6%の疲労の有症者が増加した。また、冷房使用と外気温、睡眠の質に関する調査を行った結果、夏の最も暑い時期には冷房の利用率が80%に達する一方で、外気温上昇により睡眠の有症者の増加が観測された。このことから冷房利用が必ずしも睡眠の改善につながっていないことが示された。また、睡眠の状態は、冷房設定温度、夜間の冷房タイマー使用により改善する場合と悪くなる場合の両方の結果が得られた。さらに、冷房をつけて睡眠が改善された場合でも、翌日の疲労度は高くなることも観測された。 これらの解析結果を受け、2007年夏季に実施した東京都区部の睡眠実態調査の結果を再解析し、喫煙あり、飲酒なし・泥酔、疲労・ストレス、平日はすべて睡眠指標であるSQIDS得点に対し、5%水準で有意であることが分かった。 上記結果は、外気温による健康影響について、本研究における「エネルギー消費による環境改善(冷房)の実施が、睡眠、疲労などの健康影響削減に有効である」という仮説が単純なトレードオフでは無いことを示している。適応策導入に関する指針検討には、冷房による睡眠の改善があったとしても疲労度が高くなる場合等を考慮して、冷房の条件や個人の状態など複数の要因を考慮する必要性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実際の日常生活における暑熱環境での疲労や睡眠の指標に基づく評価・解析が予定通りに行われ、外気温1℃あたりの睡眠、疲労に対する人口増減の定量化が行われている。 さらに、冷房と睡眠、疲労といった健康影響の関係を定量的に解析した結果、「エネルギー消費による環境改善(冷房)の実施が、睡眠、疲労などの健康影響削減に有効である」という仮説が単純なトレードオフでは無いことを定量的に明らかにした。これらによって、適応策導入に関する指針検討には、冷房による睡眠の改善があったとしても疲労度が高くなる現象等を考慮して、冷房の条件や個人の状態など複数の要因を考慮することが重要であることが明らかになった。このような知見は、従来、気温との関係が定量的に示されておらず、本研究の計画には無かった新たな知見の提供に寄与した。
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今後の研究の推進方策 |
エネルギー消費と健康被害のトレードオフ解析をシミュレーションにより実施する計画であったが、適応策導入に関する指針検討には、冷房による睡眠の改善があったとしても疲労度が高くなる現象等を考慮して、冷房条件や個人の状態など複数の要因を考慮することが重要であることが明らかになったことから、都市部において睡眠時の空調設定などと高温時の睡眠の質などの詳細な調査を実施することで睡眠の質や疲労について改善する条件の抽出を行う。本年度は、最終年度であることから、得られた結果を取りまとめ、エネルギー消費・健康影響両面から見て望ましい適応策・緩和策の導入設計に関する指針の必要条件を提示することを目指す。
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