研究課題/領域番号 |
23370005
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
木村 正人 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 教授 (30091440)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 寄生蜂 / 共進化 / トレードオフ / 地域適応 |
研究概要 |
共進化の分子的背景を明らかにすることを目的とし、23年度より、フタクシショウジョウバエのLeptopilina victoriae抵抗性系統と非抵抗性系統を混ぜ合わせた母集団より,抵抗性系統を選抜した。これらの系統について生活史形質および環境抵抗性を調べた。その結果、Leptopilina victoriae抵抗性とトレードオフの関係にある形質は見いだされなかった。Leptopilina victoriae抵抗性にはコストはないか、あっても極めて小さいと考えられた。続いて、これらの系統についてAFLP解析を行い、抵抗性系統に特異的に見られるDNA断片を一つ見いだした。抵抗性遺伝子はこの断片あるいはその周辺に存在することが予想されることから、現在、この断片についてDNA解析を行っている。 さらにLeptopilina victoriaeについて、フタクシショウジョウバエに寄生力をもつ系統と持たない系統をかけ合わせた母集団から、寄生力をもつ系統の選抜を行ったが、選抜効率は高くなかった。そこで、両系統のもどし交配個体について、寄生力を査定するとともに、次世代シークエンサーにより寄生力とリンクしているDNA断片を検出すべく、交配実験を開始した。 本年度は、またインドネシア・ボゴール、西表島、東京、静岡、五島列島、志賀高原、札幌において系統サンプリングを行い、新たに寄生蜂3種6系統を確立した。これらの寄生蜂について、各地域から得られたショウジョウバエ3-7種における寄生成功率を調べた。その結果、寄生可能なショウジョウバエ種に対しては、寄生成功率は異なる地域の個体群より同地域の個体群においてより高い傾向が見られた。このように寄生蜂、宿主であるショウジョウバエは地域適応している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
寄生蜂、ショウジョウバエの飼育系統の確立については順調に進んでいる。また、これら寄生蜂、ショウジョウバエの飼育系統を使った寄生実験も順調に進んでおり、寄生蜂ーショウジョウバエ間の共進化、地域適応、地理的分化の概要についてはかなり明らかにすることができた。 ショウジョウバエの寄生蜂抵抗性の選抜実験も順調に進み、抵抗性系統と非抵抗性系統を確立することができた。これらの系統について、産卵力、寿命、低温耐性など、各種生活史形質と環境抵抗性を測定し、抵抗性獲得のコストを明らかにすることができた。またさまざまな寄生蜂への抵抗性を調べることにより、今回獲得した抵抗性の汎用性についても明らかにすることができた。 一方、寄生蜂の寄生力の選抜実験は、今年度はうまくゆかず、再度選抜を試みている。寄生力に関連することとして、各種寄生蜂が宿主に注入する毒液の効果について明らかにすることができた。しかし、その効果をもたらすのがどのような分子であるかについては、まだ明らかになっていない。 抵抗性遺伝子の探索については、AFLP手法により、抵抗性遺伝子そのもの、あるいはその近傍にあると思われるDNA断片を得ることができた。しかし、このDNA断片の同定までには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度,選択実験により作成された抵抗性を示す系統に特異的なDNA断片のクローニングを行い,その近傍の遺伝子を調べることにより,抵抗性に関わる遺伝子の特定を試みる.さらに抵抗性を示す系統と示さない系統間のDNAの相違を次世代シークエンサーにより解析し,抵抗性に関わる遺伝子の特定を試みる. 昨年度行った寄生力についての選抜では選択効率が低かったので,今年度は,寄生力をもつ系統と持たない系統についての戻し交配個体について,次世代シークエンサーと各戻し交配個体の寄生力を査定することにより,寄生力の高い系統に特異的なDNA断片を検出し,それに基づいて寄生力に関わる遺伝子の同定を試みる. 昨年度の研究より,寄生蜂のもつ毒液が寄生成功に大きく影響する可能性が示されたため,寄生蜂各種の毒液の機能,さらにショウジョウバエ各種の毒液に対する抵抗性を比較し,毒液が寄生蜂とショウジョウバエの共進化にどのような役割を果たしているかを明らかにする. さらに東京,西表島,インドネシアの各地より,Leptopilina victoriaeとL. japonicaおよび優占するショウジョウバエを採集し,これら地理的系統間で寄生実験を行い,ハチの寄生力とハエの抵抗性の地理的変異をさらに詳しく調べる.また,これらの地域より新たな寄生蜂種,特に昨年度の調査で興味深い寄主等異性を示したAsobara属数種の採集も行い,これらの寄生者・宿主間で寄生実験を行うことにより,ショウジョウバエー寄生蜂の相互作用を明らかにする.
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