共進化系の動態を理解する上で,宿主の寄生蜂に対する抵抗性遺伝子,寄生蜂の寄生力に関わる遺伝子の同定は極めて重要である.今年度は,まず,昨年度までに得られた宿主の抵抗性と強く連関しているAFLP断片を手がかりに抵抗性遺伝子の同定を試みた.その結果,抵抗性は,おそらく1遺伝子座により支配されていることが明らかになったが,遺伝子そのものについては,まだ同定に至っていない.寄生力遺伝子については高寄生力系統と低寄生力系統の戻し交配個体について,まず寄生力を査定した.この過程で,寄生力に関わる遺伝子はおそらく3つ以上あることが明らかになった.現在,戻し交配個体について次世代シークエンサーによりDNA解析を行っている.この結果と査定された交寄生力の関連性を見ることにより,寄生力遺伝子の同定が可能である. 拡散共進化系では,寄生蜂は複数の宿主種を利用する.こうした宿主は,種により体サイズ,成長速度も異なるため,寄生蜂は寄生する種により成長戦略を変更する必要がある.寄生蜂がそうした宿主の違いに対応し,どのように成長を制御しているかは,拡散共進化系の動態を理解する上で極めて重要である.今年度は,寄生蜂4種について,体サイズ,成長速度が大きく異なる宿主ショウジョウバエ6種にどのように対応しているかを調べた.その結果,まず,これらの寄生蜂は宿主幼虫に産卵するが,産卵後宿主幼虫が囲蛹殻を形成するまで,ほとんど成長せず,その後急速に成長することで幼虫期の長さの相違に対応していることが明らかになった.また,幼虫の成長が速く,より大きくなる宿主に対しては,寄生蜂幼虫も成長を速めることにより,対処していることが明らかになった.このように寄生蜂は宿主により成長戦略を変え対応している.こうした可塑性がコストを伴うかどうかは,寄生蜂の宿主選択の進化において極めて重要な知見であり,今後の課題である.
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