今までの純粋培養系研究で、発酵細菌とメタン菌が共生関係を構築する際に鞭毛が接着やシグナル伝達に使われていることが分かっている。また、酸化鉄が仲介しそれら微生物の共生的電子伝達を促進することが明らかになった。そこで、このような共生関係がメタン発酵微生物群集内でどのように機能するかを明らかにする目的で、酢酸を基質とする高温固定床型メタン発酵槽を運転し、その中に形成される微生物群集を16S rRNA遺伝子増幅断片のpyrosequencing、およびIllumina sequenserを用いたショットガンメタゲノム法により解析した。その結果、この微生物群集にはFirmicutesに属す細菌数種とEuryarchaeotaに属すアーキア数種が主要メンバーとして存在することが明らかになった。この中のいくつかの種は、担体に次に、これらの微生物が群集内で発現する遺伝子からそれらの機能を予測する目的でメタトランスクリプトーム解析を行った。その結果、メタン生成系の遺伝子が高発現していることが確認された。さらに、密な共生関係が存在すると考えられる生物膜内で細菌の鞭毛遺伝子が高発現していることも示された。この発見は、微生物群集内においても、鞭毛が発酵細菌とメタン菌が共生関係を構築する際に重要な役割を果たしていることを示している。その他、ストレス応答遺伝子のいくつかが生物膜内で高発現していることなども明らかになり、共生関係を形成している細胞の生理状態を知るうえで有用な情報が得られた。
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