研究課題/領域番号 |
23370009
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
嶋田 正和 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (40178950)
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研究分担者 |
柴尾 晴信 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特任研究員 (90401207)
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キーワード | 匂い学習 / 寄生蜂 / ゾウムシコガネコバチ / 探査行動 / 選好性 / カイロモン / 宿主マメゾウムシ / 体表炭化水素 |
研究概要 |
ゾウムシコガネコバチは、豆内に潜む宿主マメゾウムシ2種の匂いを豆表面から知覚し、その匂い学習で、選好性を高めている。今回は、2種類の豆(種皮の薄いブラックアイと種皮の厚いアズキ、前者は豆内の宿主は攻撃しやすいが、後者は攻撃を受けにくいので避難場所となる)を用いで3者実験系を設定した。この寄生蜂は羽化して宿主を探しに行くとき、個体数頻度の多い種(匂いのカイロモンが高濃度)を寄生するという頻度依存捕食を介することで、宿主2種に交代振動が発生し、3種の系が長期に共存することが分かった。この時系列を解析したところ、数理統計モデルでも1975年にMurdoch and Oaten(1975)の理論モデルが出て、40年間近く検証がなされなかったテーマであったが、嶋田と石井の論文が世界で初めて検証に成功した。 また、ゾウムシコガネコバチは、寄生マメ表面の宿主の匂いをカイロモンとして利用・学習して、産卵を経験した宿主に対する選好性を増加させることで効率的な寄主探索を実現していると考えられる。 本年度は、この作業仮説を検証するために、産卵学習に関与するカイロモンを特定するべく、2種マメゾウムシ由来の化学成分をGC/MSで同定し、これらの化学成分に対する触角電図を測定することを試みた。 その結果、寄生マメ表面の匂いは、マメ内部にいる幼虫やその排泄物のものではなく、2種マメゾウムシの雌成虫が残した足跡の成分に由来することが分かった。各種マメゾウムシに特異的な成分を探索したところ、炭化水素の組成に違いが見つかった。これらのことから、寄生蜂に作用する宿主由来のカイロモンは、接触性化学刺激物質として知られる炭化水素である可能性が高いと考えられた。 触角電図測定装置を用いて、低揮発性の炭化水素に対する触角応答の測定を試みたが、技術的な問題のためか、満足できるレベルの応答を得るには至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
宿主マメゾウムシ2種の匂い学習で、ゾウムシコガネコバチが個体数頻度の多い種を寄生するという頻度依存捕食をすることで、宿主2種に交代振動が発生し、3種の系が長期に共存することが分かった。これは1975年にMurdoch and Oaten(1975)の理論モデルが出て、40年間近く検証がなされなかったテーマであったが、嶋田と石井の論文が世界で初めて検証に成功した。これは、米国アカデミー紀要(PNAS)に2012年3月27日に掲載され、これは日本農業新聞とサイエンスナビで報道された。
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今後の研究の推進方策 |
PNASの論文は、成虫期の匂い学習が宿主の個体数頻度に応じて選好性が交代する内容であったが、嶋田のグループは、さらに一部の寄生蜂で報告されている「蛹から羽化期にかけての匂い学習」の実験を開始している。母親がある宿主を寄生したとすると、蛹から羽化期にその宿主の匂いを学習することで、子世代がその匂いを記憶して外界に探査しに行くと、その宿主を寄生する確率が高くなり、これがさらに孫世代に…というように、遺伝的変異を経ずに匂い学習が累代で伝わることになり、これは進化に影響を与える可能性がある。匂い学習がやがて進化を推進するのはBaldwin効果と呼ばれ、最近、表現型可塑性の進化の一つとして注目を集めているので、実験とモデル解析で挑戦したい。
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