研究課題/領域番号 |
23370009
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
嶋田 正和 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (40178950)
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研究分担者 |
柴尾 晴信 東京大学, 総合文化研究科, 学術研究員 (90401207)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 学習行動 / 選好性 / ゾウムシコガネコバチ / 寄生 / 個体数動態 / 個体ベースモデル / Baldwin効果 / 進化 |
研究概要 |
ゾウムシコガネコバチは、豆内に潜む宿主マメゾウムシの匂いを豆表面から知覚し、その匂い学習で選好性を高めている。今年度は一部の寄生蜂で報告されている「蛹から羽化期にかけて食べ残しの宿主残骸と一緒にいることで匂い学習する効果」の実験を行った。ゾウムシコガネコバチに3種類の宿主(アズキゾウムシ、ヨツモンマメゾウムシ、対照:ブラジルマメゾムシ)の終齢幼虫を与え(親世代)、そこから羽化した雌蜂に、アズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシの終齢幼虫を与えた(娘世代)。その結果、親世代でヨツモンマメゾウムシに寄生産卵した場合、育って羽化した娘世代ではヨツモンマメゾウムシに有意に選好性が高くなる結果を得た。つまり、親世代である宿主種を寄生すると、娘世代が幼虫から蛹~羽化期に食べ残しの宿主残骸と一緒にいることで匂い学習し、その匂いを記憶して羽化し外界に宿主を探査しに行くことで、同じ宿主種を寄生する確率が高くなる。この効果を、宿主2種への選好性の世代発展の方程式を組み込んだ個体ベースモデル(IBM)を構築し、遺伝的アルゴリズムで選好性学習の効果と遺伝的変異にかかる自然選択の効果とを区別する解析を行った。その結果、初期の50世代で幼虫から蛹~羽化期の学習のみがあると、GAの遺伝的変異と自然選択だけよりもずっと選好性の増分が有意に高くなることが分かった。このように、進化的適応を間接的に推進する学習効果はBaldwin効果と呼ばれ、最近、表現型可塑性の進化の一つとして注目を集めており、脳-神経系での生理的過程を考察した。また、ゾウムシコガネコバチの姉妹種(Anisopteromalus sp.;染色体数が違うが、形態はほぼ同一、繁殖の生活史性質は全く違う)も調べ、繁殖が全く違う姉妹種には産卵寄生学習の効果はほとんど見られないことを、2つの論文で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ゾウムシコガネコバチの2段階の学習があり、母蜂による通常の産卵学習に対して、豆内で幼虫から蛹・羽化に至る期間に宿主の残骸の匂いを記憶して羽化後に同じ匂いを探査する有意な効果を検出することができた。これは、動物行動学のトップ誌であるAnim. Behav. に投稿中である。これを組み込んだ個体ベースモデル(IBM)では、学習が間接的に進化を推進するBaldwin効果を検出することができ、これらの成果は、2つの国際会議と日本生態学会・年次大会で発表した。さらに、ゾウムシコガネコバチとその姉妹種の寄生学習行動の比較について、2つの論文で公開した。
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今後の研究の推進方策 |
ゾウムシコガネコバチの寄生行動に、神経伝達物質(オクトパミン、セロトニン、ドーパミン等)がどのように効くか実験的分析を行う。また、Baldwin効果を入れたIBMのモデルをさらに深く解析を進める。
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