研究課題/領域番号 |
23370010
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中野 伸一 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (50270723)
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研究分担者 |
早川 和秀 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター, 総合解析部門, 専門研究員 (80291178)
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キーワード | 植物プランクトン / 溶存有機物 / 浮遊細菌 / 化学組成 / 遺伝系統解析 |
研究概要 |
本研究では、溶存有機物の変性過程と細菌群集組成の変化とを対応させて研究し、細菌群集と溶存有機物の相互作用による両者の質的変遷の多様性を解明することを目的としている。琵琶湖北湖定点の細菌群集構造解析には、キノンプロファイル法を用いた。細菌バイオマスの指標である全呼吸鎖キノン量は、成層期の5mでは7月調査時をピークに経時的に減少した。70mのキノン量は5mに比べて低い値で推移する傾向にあり、明確な季節変動は見られなかった。成層期の5mではActinobacteria(メナキノン(MK)-9, 10, 11および水素飽和型MK)が、70mではBetaproteobacteria(ユビキノン(UQ)-8)が優占した。また、琵琶湖の深水層において、CL500-11クラスター(クロロフレクサス門)の細菌が優占分類群であることを解明した。成層期には、深水層においてCL500-11クラスターが優占し、季節周期的な変動を示した。CL500-11クラスターは、成層期を通じて深水層で増加し続け、最大で全細菌現存量の10%に達した。琵琶湖における蛍光溶存有機物の生物地球化学的解析では、蛍光溶存有機物(FDOM)をタンパク質様のFDOM (FDOMT)と腐植物様のFDOM (FDOMM)に分類した。FDOMTの季節動態は、準易分解性有機物と有意な相関があった。FDOMMの季節動態は、微生物(主に細菌)による酸素消費、窒素・リンの栄養塩類濃度の季節パターンと有意な相関があり、FDOMMは深水層における有機物分解過程で生ずるものと推測された。湖水中の細菌類による溶存有機物の変質を検討するために、湖水中に有機物を添加して細菌を培養・増殖させ、増殖後の溶存有機物の化学組成を調べて細菌類の関与を調べた。細菌の増殖により生成する有機物は、分子量5,000以下の低分子量の有機物が全体の8割を占めた。窒素添加系では、コントロールに比べ、培養後にアミノ酸が多いことが示唆された。細菌群集組成解析では、コントロールと窒素添加系では細菌群集に大きな違いが見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画にあった植物プランクトン現存量・組成、細菌群集解析、原生生物群集解析、溶存有機物濃度・化学組成、光合成・呼吸速度測定のいずれについても、測定や分析を終えているだけでなく、これらについての学会発表や論文執筆・投稿まで済ませている。また、平成24年度に予定していた原生生物の単離が終わっており、平成24年度には単離した生物の遺伝子のシークエンスをすでに進めている。藻類の単離や室内実験での分析の再検討もあるが、研究全体としては順調に動いている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、琵琶湖の植物プランクトンを室内で培養することにより、藻類が生産する溶存有機物を収集することができるため、本研究にとって藻類の単離がそれほど重要でないことが分かってきた。平成24年度は、琵琶湖の植物プランクトンを用いて、生産された溶存有機物の動態研究に専念する。琵琶湖の原生生物のいくつかの種について単離が成功したので、単離株を用いてFISH法のプローブを作成し、琵琶湖の原生生物個体群動態の研究を進める。また、室内実験では、細菌より生成するアミノ酸、アミノ糖の定量方法を再検討する。溶存有機物の3次元蛍光スペクトル解析では、新たにPARFAC (Parallel factor)モデルを導入し、有機物の各成分の分離をより明確にする。
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