研究課題
本研究では、溶存有機物の変性過程と細菌群集組成の変化とを対応させて研究し、細菌群集と溶存有機物の相互作用による両者の質的変遷の多様性を解明する。研究は、琵琶湖北湖において、月に1 回の頻度で調査・サンプル採取を行った。鉛直プロファイラーを用いた物理化学環境項目の鉛直プロファイルの測定を行い、また表層、水温躍層上部、水温躍層下部、深層から試水を採取し、栄養塩類濃度、植物プランクトン現存量、細菌現存量、細菌群集解析、原生生物群集解析、溶存有機物濃度・化学組成、光合成・呼吸速度の測定を行った。琵琶湖北湖では、夏季の成層期の表層において窒素とリンが枯渇したのに対し、溶存有機物、特にタンパク質様溶存有機物(PDOM)の蓄積が見られた。これに対して、腐植物質様溶存有機物(HDOM)の蓄積は、PDOMの分布の直下に見られた。PDOMの濃度は主に細菌による酸素消費量と正の相関があったことから、PDOMは細菌による分解を受けていると示唆された。また、HDOMは、表層で植物プランクトンにより生産されたPDOMが湖水混合等で深層に輸送される際に細菌の文かいを受けたことにより生成されると示唆された。細菌の群集解析は、細菌の遺伝系統をある程度反映し、かつ生理特性をも反映する呼吸鎖キノンを用いた分類方法を開発し、これを琵琶湖北湖に適用した。その結果、琵琶湖の表層、深層の両方において、どの季節においてもユビキノン8保有タイプとユビキノン10保有タイプの細菌が優占した。これらの細菌は、PDOMの分解によるHDOMの生成に関与していると示唆された。
2: おおむね順調に進展している
琵琶湖北湖の溶存有機物の濃度、鉛直分布、化学組成の季節変化と、分解に伴う化学組成の変化および有機物の鉛直輸送まで評価できたのは、大きな進展である。細菌の群集組成を、Fluorescent in situ Hybridization法で行う予定であったが、この方法は遺伝子配列のみに着目した分類であり、有機物分解特性等の生理特性は全く反映されない。このため、呼吸鎖キノンに基づいた分類方法を開発し、琵琶湖北湖に適用した。この方法により、有機物変遷に関係した細菌の群集解析を進めることができた。鞭毛虫の群集解析は、夏季のサンプルのみ解析が終わっており、平成25年4月中にはその他の季節の解析も終了する。藻類の単離を行っていないが、この作業は元々溶存有機物の採取とその分解実験を行うためのものであり、琵琶湖観測に基づいた上記の結果が得られているので、藻類単離は特に必要が無くなった。以上の研究の進捗状況から、本研究はおおむね順調に進んでいる。
平成25年度は、平成24年度までに得られた成果の論文発表を行う。細菌については、呼吸鎖キノンを用いた細菌分類を、細菌の増殖と死滅の定量化に結び付け、琵琶湖北湖における細菌生産と原生生物の摂食による死滅を細菌亜集団ごとに測定し、この成果に基づいて、平成25年度内の論文発表を行う。この論文については、平成25年度4月中に投稿可能である。平成23年度と24年度で、琵琶湖北湖沖帯の溶存有機物化学組成の季節動態についてまとまったデータを得ることができたので、平成25年度には論文発表ができる見通しがついた。原生生物の群集解析は、平成25年度の早い時期に終了し、論文発表も平成25年度内に行うことを目指す。なお、平成25年度は、原生生物のうち、有機物変遷や優占細菌亜集団の死滅に重要と思われる種について、遺伝子プローブを開発し、当該種の琵琶湖における分布と季節動態を追う研究を進める。
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FEMS Microbiology Ecology
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