研究課題/領域番号 |
23370012
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
椿 宜高 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (30108641)
|
研究分担者 |
清 拓哉 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究員 (40599495)
高橋 純一 京都産業大学, 総合生命科学部, 准教授 (40530027)
|
キーワード | 形質置換 / 色彩多型 / 競争排除 / 生息地分割 / 日照環境 / カワトンボ / 遺伝的多様性 / 種分化 |
研究概要 |
近縁の2種が種間交雑や繁殖干渉のリスクを回避して同所的に分布するには、生息地分割や形質置換が必要と考えられている。しかし、これまでの研究の多くはそれらの検出にとどまっており、進化の生態学的メカニズムが詳細にされた例はほとんどない。H23年度は、カワトンボ属の生息地分割と形質置換に関する研究で、以下の成果が得られた。 (1)同所・異所集団における生息地選好性の比較 カワトンボ属2種(Mnais costalisとM.pruinosa)は、いずれも低山地森林の渓流に生息する近縁種である。魚眼レンズカメラを用いて、両種の生息場所の開空度の測定した結果、どちらの種も異所的分布をする場合は、適度に日光が差し込む森林に生息しているが、両種が共存する場所ではM.costalisは開けた場所に、M.pruinosaは陰の多い林内に分かれて分布することが分かった。同所的な2種には体サイズの形質置換が見られるととがわかり、飛翔能力が体サイズと温度依存であることを考え合わせ、両種の生息地分割が形質置換と連動していることが示唆された。 (2)体サイズと性的形質に関する形質置換の検出 2種が共存する地域では翅色の多型が地域によって異なっている。H23年度は,北海道、茨城、新潟、富山、滋賀、和歌山、徳島、岡山、佐賀から得られた標本について、モルフォメトリクスの手法を用いて翅の形を比較検討した。その結果、同種であっても、同所的集団と異所的集団の間に違いがあることが分かった。結果、種間相互作用は、体サイズや翅の色ばかりでなく、翅の形や、体のプロポーション、行動にも変化をもたらすこと分かってきた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究に必要な標本を蓄積することが初年度の最大の目標であった。2種の単独域、混生域での標本はほぼ集まった。海外研究者の来日は実現することができ、執筆した共著論文は投稿直前の段階にある。遺伝子解析は進行中であるが、まだ結果は出ていないので、おおむね順調に進展していると自己評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
近縁種間の相互作用による形質置換の研究をレベルアップするには、系統解析の情報が必要となるが、ミトコンドリアDNAの変異が少ないことからMnais属の系統樹はまだ存在しないと言ってもよい研究レベルにある。Mnais属は、表現形レベルでの進化の問題を解くにはきわめて多くの仮説をもたらしてくれる貴重な分類群であるが、系統学上の位置が分かっていないところに弱点がある。今後は、AFLP解析などを用いて、信頼性のある系統樹を構築し、その情報をもとに種分化の議論へと研究を進めて行く。
|