光エネルギー変換や窒素固定により海洋生態系の基盤を支えているシアノバクテリアは、海洋構造がつくる多様な環境条件(光、栄養、水深)のもとで生育し、また様々な生活様式(プランクトン型、付着型、無脊椎動物共生型)をもつ。特に、光環境は水深や生物などの様々な要因により変化に富んでおり、各光条件のもとで光合成の反応効率を維持するため、特殊な光合成色素を持つ種も存在する。本研究では、これらの多様な海洋シアノバクテリアについて、光合成システムの維持機構、環境応答能、多様化、などについての解明を進めている。 海洋の有光層下部の光補償点深度限界領域(海面直射光の1%~0.1%が到達、500nm付近の青色光成分が優先)付近において光合成生物の優占種となっているジビニル型クロロフィルをもつプロクロロコッカスについて、色素組成の異なる3株間の解析に基づき色素間の光エネルギー移動過程を解明した。 また、プロクロロコッカスよりは水深の浅い中間層に分布し、通常のモノビニル型クロロフィルaと多彩なフィコビリンをもつシネココッカスについて、光合成反応の場となるチラコイド膜の構成脂質と脂肪酸についての解析も進めている。さらに、光合成電子伝達系の構成成分や色素合成に関与するヘムの合成代謝酵素遺伝子のシアノバクテリア内での多様性について解析した。 シアノバクテリアと共通の光合成色素(クロロフィルaとフィコビリン)をもつ紅藻類を中心に、カロテノイド組成と生合成系の多様化に着目し、シアノバクテリア、クリプト藻なども含めた解析を進めた。また、様々な環境のもとから新たに採集したシアノバクテリアについて、新規培養株の確立と光合成特性の解明を進めている。 以上の研究成果についての論文の作成を進め、いくつかについては既に受理・公開されている。
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