研究課題/領域番号 |
23370019
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木下 俊則 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50271101)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | オーキシン / 細胞膜プロトンポンプ / 細胞伸長 / リン酸化 / 黄化芽生え / シロイヌナズナ |
研究概要 |
植物ホルモン・オーキシンの代表的な生理作用の一つである植物細胞の伸長促進は、オーキシンにより細胞膜H+-ATPase活性を増大させることによって細胞体積を増加させ、細胞の伸長を促進すると考えられている。しかしながら、オーキシンがどのようにして細胞膜H+-ATPaseの活性上昇を引き起こしているのか、その分子機構は不明である。 本研究では、オーキシンによる細胞膜H+-ATPaseの活性化機構について解析を進めた。その結果、シロイヌナズナの黄化胚軸において、オーキシンは、細胞膜H+-ATPaseの発現量には影響を与えずに、H+-ATPaseのC末端から2番目のスレオニンのリン酸化を引き起こすことによってこの酵素を活性化し、細胞伸長を促進していることを見出した。また、既知のオーキシン受容体であるTIR1とAFB2の特異的アンタゴニストであるPEO-IAAや、オーキシン受容体TIR1とAFB2の二重変異体では、正常にオーキシンによるH+-ATPaseのリン酸化が見られることから、未知のオーキシン受容体とシグナル伝達がこの反応に関与していることを示唆された。さらに、オーキシンによるH+-ATPaseのリン酸化のシグナル伝達には、オカダ酸やカリクリンAにより阻害されるタイプ1またはタイプ2Aプロテインホスファターゼが関与することが明らかとなった。以上の研究により、植物生理学において長年不明であったオーキシンによる細胞伸長促進の初期過程の分子機構が明確となった。なお、本研究結果は、国際誌Plant Physiologyに掲載された。 さらに、未知のオーキシン受容体の同定やシグナル伝達機構の解明に向け、オーキシン誘導体を用いたケミカルスクリーニングや突然変異体の単離に向けた遺伝学的スクリーニングの条件検討を行い、ほぼ完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
長年の課題であったオーキシンによる細胞伸長の促進の初期過程の分子機構を明らかにし、未知のオーキシン受容体の関与を証明する結果を得ることができたため。また、これらの結果をとりまとめ、国際誌Plant Physiologyに掲載されたため。さらに、未知のオーキシン受容体の同定やシグナル伝達機構の解明に向け、オーキシン誘導体を用いたケミカルスクリーニングや突然変異体の単離に向けた遺伝学的スクリーニングの条件検討を行い、これらスクリーニングの準備がほぼ整ったため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、この反応に関わる未知のオーキシン受容体の同定とシグナル伝達機構を解明することが急務である。候補としては、古くからオーキシン受容体であることが知られているABP1が有力な候補と考えられるため、ABP1が関与するかどうかについて遺伝学的・生化学的な解析を進めている。さらに、未知のオーキシン受容体の同定やオーキシンがどのようにしてオーキシンが細胞膜H+-ATPaseのリン酸化を引き起こしているのかについて、変異原処理したシロイヌナズナを用いた遺伝学的スクリーニングを本格的に開始する。また、オーキシン誘導体を用いたケミカルスクリーニングを行い、この反応特異的なアンタゴニストやアゴニストの同定を行い、未知のオーキシン受容体の同定とシグナル伝達機構の解明につなげていきたい。
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