研究課題/領域番号 |
23370020
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤田 祐一 名古屋大学, 大学院・生命農学研究科, 准教授 (80222264)
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研究分担者 |
伊藤 繁 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 名誉教授 (40108634)
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キーワード | 酵素反応 / 電子伝達 / プロトン移動 / 電子スピン共鳴 / 鉄硫黄クラスター |
研究概要 |
クロロフィル(Chl)生合成系酵素として初めて暗所作動型プロトクロロフィリド(Pchlide)還元酵素(DPOR)の結晶構造解析が解明され、DPORが窒素固定酵素ニトロゲナーゼと共通した構造的枠組みを有することが明らかにされた。本研究では、この構造情報を基にPchlide還元の反応機構の解明を目指している。DPORにおける触媒コンポーネントNB-タンパク質の立体構造によると、基質であるPchlideのD環C17=C18二重結合へのプロトソ供与体は、各々アスパラギン酸残基(BchB-Asp274)と基質自身のC18位プロピオン酸であると推定される。これらプロトン供与体からのプロトンと還元コンポーネントからの電子がどのように協調して基質に転移され、生成物クロロフィリドへと変換されるのか、その分子機構の解明の第一歩として、アスパラギン酸をアラニンに改変した変異タンパク質BchB-D274Aを調製し、その活性を検討した。BchB-D274Aは、BchNと複合体NB-タンパク質形成を形成するが、通常の反応条件ではPchlide還元活性を示さなかった。しかし、酵素濃度と基質を通常の約10倍で反応させると、興味深いことに、色素の吸収スペクトルの急激な減少が観察された。さらに、この反応溶液の電子スピン共鳴(ESR)解析により、有機ラジカル形成を特徴付けるg値をもつESRスペクトルが検出された。この結果は、DPORがラジカル反応を誘起することで安定な共鳴二重結合を還元していることを示しており、またDPORによるPchlide還元が基質そのものにラジカルが生じるユニークな反応であることを示唆している。今後は、C18位へのプロトン供与体をブロックするためにPchlide基質アナログであるクロロフィルcを用いた解析により、プロトン供与と電子伝達の機序を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロトン供与体となるアスパラギン酸をアラニンに改変した酵素による反応において、吸収スペクトルおよび電子スピン共鳴スペクトルにより有機ラジカルが形成されることを同定することに成功したことで反応機構の解明に向けての大きな一歩を踏み出したと評価できることから。
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今後の研究の推進方策 |
もう一つのプロトン供与体である基質プロトクロロフィリド自身のC17位プロピオン酸がアクリル酸に置換された基質アナログであるクロロフィルcを用いて、反応中間体のトラップを試みる。さらに、DPORのL-タンパク質からNB-タンパク質への電子伝達の阻害剤ニコチンアミドを併用し、2つの電子と2つのプロトンによる還元反応の作用機序を明らかにする。より大量の変異型NB-タンパク質やL-タンパク質を調製するために、新たに培養装置が必要となったので、昨年度後半に購入したので、これを活用して研究をより効率的に推進する。
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