研究課題/領域番号 |
23370022
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
荒木 崇 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (00273433)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 苔類植物 / ゼニゴケ / 生活環制御 / 発生 / 生殖成長 / 環境応答 / トランスクリプトーム / 比較機能ゲノム |
研究概要 |
3つの研究課題のうち、転写因子MpLFYを要とする転写制御ネットワークとその調節下の発生・生理過程に関しては、作出したノックアウト(KO)株が真の遺伝子機能破壊株ではない可能性が浮上し、KO株の再作出を最優先課題とすることになった。再作出に当たっては、DNA結合ドメイン(Cドメイン)を選択マーカーと置換することで、仮に蛋白質が発現しても、機能を持たないものになるように設計した。これにより、遺伝子機能を完全に失ったKO株を独立に2株(どちらも雄)得ることができた。しかし、2株の間で表現型に違いが見られたことから、差異を生じさせた原因を探索した。その結果、遺伝的な背景が異なる雌雄の野生型標準株を交配したF1世代を形質転換に用いたことによる遺伝的背景の不均一が原因であることが判明した。表現型解析やKO株を用いた制御標的遺伝子の探索には、KO株とKO株に野生型遺伝子を再導入した相補KO株の比較をおこなうことが適当であるという判断に至った。以上の問題とそれに対する対処のために、研究計画の一部(KO株の表現型解析と制御標的遺伝子の探索)に遅れが生じ、経費の一部を平成25年度に繰越す必要が生じた。2つのMADSボックス転写因子が関わる発生・生理過程に関しては、共同研究を進める計画であったOsnabruck大学の研究グループの研究体制の変更により、遂行が難しくなったため、シロイヌナズナにおいて関連する発生過程に関わることが知られており、すでに解析に着手していたSPL転写因子に研究対象を切り換えることにした。4つのSPL転写因子遺伝子が存在することを見いだし、そのうち2つ(MpSPL1, 2)が生活環制御に関わる可能性が高いと考え、KO株や発現レポーター株の作出に着手した。3つのPEBPが関わる発生・生理過程に関しては、無性芽の休眠・発生過程と関わりがある可能性を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
他は概ね順調に進捗したが、転写因子MpLFYに関して、作出したノックアウト(KO)株が真の遺伝子機能破壊株ではない可能性が浮上し、新たな設計による再作出が必要となった。また、その結果得られた独立の2株のKO株間で表現型に違いが見られ、差異を生じさせた原因の探索と、それに対する対処策の案出にさらに時間を割くことになった。その結果、KO株の表現型解析とこれを用いた制御標的遺伝子の探索に着手するのが次年度にずれ込むことになった。また、これに伴い、RNA seq解析を行うために計上していた経費を平成25年度に繰越す必要が生じた。以上から、「やや遅れている」と評価した。 なお、この遅れは、経費繰越により平成25年度に行った研究により、最終的にほぼ解消できた。
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今後の研究の推進方策 |
3つの研究課題のうち、遅れが生じている転写因子MpLFYの解析に関しては、KO株とKO株に野生型遺伝子を再導入した相補KO株の比較に加え、KO株と野生型標準株を交配したF1集団における表現型の分離解析により、KO表現型の評価をおこなう。野生型標準株との交配から雌背景のKO株を得て、雌背景におけるKO表現型の評価をおこなう。また、KO株とKO株に野生型遺伝子を再導入した相補KO株、野生型標準株の三者を用いたRNA seq解析から、制御標的遺伝子の探索を進める。この2点を最優先課題とする。最終年度であることを踏まえて、速やかに研究を進め、遅れを取り戻すことに務めるが、これまでの経緯から、慎重に進めることにも留意する必要があると考える。制御標的遺伝子の探索には、MpLFY-GRを用いた機能誘導系の利用にも再度トライすることも検討する。時間が許せば、KO株同士の交配により、KO株の胞子体(2n)世代を得て、その表現型を調べる。特に、受精卵(接合子)の第一分裂が正常におこなわれるかに着目して解析する。これらを通して、MpLFYが関わる発生・生理過程に関する手がかりを得るとともに、制御標的遺伝子の候補を得る。MADSボックス転写因子に代えて解析に着手したSPL転写因子に関しては、KO株と発現レポーター株の確立を目指す。KO株作出においては、MpLFYで得られた教訓(コンストラクトの設計と遺伝的背景の問題)を活かす。PEBPに関しては、無性芽の休眠とその解除との関連に着目して研究を進め、今後の研究の発展のための知見を得ることを目指す。 最終年度であることから、3つのそれぞれに関して、設定した目標の達成を心がける。
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