研究課題/領域番号 |
23370031
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高畑 雅一 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10111147)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | アメリカウミザリガニ / 中枢神経系 / 鋏脚 / オペラント条件づけ / 筋電図 / 細胞外記録 / マニピュレーション / リーチング |
研究概要 |
本研究は、アメリカウミザリガニ Homarus americanusを用いて、高次行動の遂行を担う神経生理学的機構を明らかにすることを目的し、報酬によって動機づけられて発現する目標指向性の鋏行動制御の神経生理学的解析を行う。これまでに、神経生理学的手法が適用可能な拘束条件下において、光刺激を手がかりとした弁別学習課題の訓練可能性を検証した。24年度は神経生理学実験の第一段階として、行動開始のタイミングを運動の映像ではなく筋活動レベルで特徴付けが可能か検証するために、鋏脚に筋電図法を適用した。この際、複数の筋群から筋活動を同時計測すると共に荷重センサにより鋏行動をモニターし、鋏行動に関わる主要な筋群の活動開始タイミングを解析し、行動開始条件(センサと鋏脚の位置関係、自発/機械反射)間で比較を行った。鋏行動に関わるPropusの筋活動は行動開始条件によらず常に鋏行動に先行し、Inside(センサの位置が鋏脚内側)条件においてリーチングに関わる節ではCoxaの筋活動開始が最も先行し、Hold(センサが既に鋏まれた状態)条件時でも先行活動を示した。さらに、Hold 条件での自発性鋏行動は機械刺激応答性の鋏行動に比べ、先行して動員されるリーチング関連節の筋群がCoxaのみであり、Coxaの先行活動は鋏行動開始より直前に生じた。以上から、鋏行動開始の生理学的指標となる筋活動は主にPropusとCoxaから記録可能であることが示唆された。また、Inside条件におけるPropusの筋活動は、Hold条件や機械刺激により鋏行動を誘発した際よりも、鋏行動の開始に先行したことから、Propus閉筋の電気機械的遅延は、自発/反射性条件の差よりも鋏の開閉状態に依存し得ることが示唆された。以上から、鋏行動の開始条件における鋏脚運動の差異が筋電図レベルで記述可能であることがあることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大型甲殻類であるアメリカウミザリガニHomarus americanusは、動物行動の神経生理学的解析にしばしば用いられてきたアメリカザリガニProcambarus clarkiiと較べて刺激反応性が高く、行動的にも高次の学習能力を有している。本研究はその点に着目して、Homarusを対象として行動実験を進めてきた。しかし、Procambarusと異なり、神経活動の導出は容易ではない。その理由は標本の作製と維持の困難にある。中枢神経系の活動を記録解析するためのもっとも容易な方法は筋電図記録法である(甲殻類では、脊椎動物では見られない抑制性運動神経が存在し、筋繊維レベルで高度の統合が行われる)が、Homarusでは、甲殻が堅く、記録用電極の刺入すら容易ではない。そのため、神経活動の解析が当初の予定通りには進んでいない。その一方、行動レベルでは当初の予定を上回る高次の条件づけが可能であることが判明してきている。研究全体としての達成度は、予定した方向とは一致しないものの、今後の展開を考えると十分なものがあると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは行動実験をHomarusのみで行ってきたが、今後はProcambarusをも用い、Homarusでのタスクプロトコルの一部を行わせてその達成可能度を調査する。その可能度に合わせて部分的タスクを課し、神経活動の解析をProcambarusでも行って併進する可能性を探る。また、Homarusについては、これまでの予備的な調査で、筋電図記録用電極の刺入が実際的なレベルで可能であることが判明したため、まずこれを用いて学習時の運動パターン変化を追跡して、中枢神経系活動の内的な変化を推定して行きたい。上述のように、甲殻類では、脊椎動物では見られない抑制性運動ニューロンperipheral inhibitorが存在し、また興奮性運動ニューロンも一過型から持続型まで非常に多様であり、筋繊維レベルで高度の統合が行われている。したがって、筋電図解析により、中枢神経系内での運動側での回路網動作を高い精度で推定することが可能である。甲殻類のこの特長を最大限に活用して、また、HomarusとProcamabarusの特性をも最大限に活かすことにより、本研究の目標の最大限の達成を期する予定である。
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