研究課題/領域番号 |
23370032
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久保 健雄 東京大学, 大学院・理学系研究科, 教授 (10201469)
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キーワード | ミツバチ / 社会性行動 / エクダイソン / キノコ体 / ケニヨン細胞 / モジュール構造 |
研究概要 |
本研究ではミツバチ働き蜂の分業において、生理状態が内分泌系によりどのように調節されるか調べると伴に、社会性行動に関連する脳の高次中枢(キノコ体)について、そのモジュール構造を構築するケニヨン細胞サブタイプ(大型/中間型/小型)の神経投射や遺伝子発現に内分泌系がどう影響するか調べ、働き蜂の行動と生理状態を連動して制御する内分泌・神経機構の解明を目的として実施している。今年度は1)分業を誘導するホルモン条件の検討、2)キノコ体のモジュールを形成する3種のケニヨン細胞の性状解析、を計画した。 今年度1)に関しては、塩田-山崎らが働き蜂の脳ではエクダイソンが合成されることの実証に成功した[Yamazaki et al.(2011)]。2)に関しては、ミツバチ脳で領野特異的に発現する遺伝子産物に対する抗の調製を進めると伴に、中間型ケニヨン細胞が蛹期に細胞分裂が終わってから分化誘導するとの新規知見を得た(Ikeda et al.未発表)。また3種のケニヨン細胞特異的に発現する遺伝子のプロモーターを同定する上で、適切な遺伝子を決定した。 さらに緊急応答遺伝子を用いて、遠い/近い距離を採餌飛行した際、また採餌飛行時に受容する視覚流動量を人為的に変化させた際に、キノコ体小型ケニヨン細胞の神経活動が変化することを示し、キノコ体がし餌行動時の視覚情報処理に関わることを示唆した[Kiya and Kubo,(2011)]。また、ニホンミツバチがオオスズメバチに対して熱殺蜂球形成を行う際には、キノコ体のクラスIIケニヨン細胞が活動し、この活動は高温情報処理に関わる可能性を示唆した[Ugajin et al.(2011)]。また脳選択的に発現する新規microRNAを同定し、脳領野選択的遺伝子発現が翻訳レベルで制御される可能性を示唆した[Hori et al.(2011)]。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
小課題1)に関しては交付申請書に記載した研究計画そのものは、担当する大学院生が卒業したため実施が遅れているが、代わりに脳でエクダイソンが合成されるとの直接的証拠を初めて得て、論文発表した。小課題1)の分子的基礎を与える重要な成果である。小課題2)に関しては研究計画に沿った実験を実施し、順調に成果を得た。加えて、初期応答遺伝子を用いてミツバチの採餌飛行距離と関連した脳の神経活動、「熱殺蜂球形跡」に関連した脳の神経活動を世界で初めて検出し、論文発表した。これらは国際的にも独創的で学術的価値の高い研究成果である。後者はプレスリリースし、国内外(海外ではBBCやロイター通信等)の多数のメディアで報道された。ミツバチの神経生物学分野で世界的に著名なRandolf Menzel教授(Wurtzburg大)を記念した教科書「ミツバチの行動神経生物学」の一章を執筆し、本研究課題に至るこれまでの研究成果を概説した。広報活動として非常に有益であった。
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今後の研究の推進方策 |
小課題1)に関しては、研究計画に沿った実験を実施し、論文発表する計画である。小課題2)に関しても、研究計画に沿った実験を実施すると伴に、昨年度の研究成果を加えて、「領野選択的な遺伝子発現に基づく、新規なミツバチ脳のモジュール構造の発見」に関する重要な論文を発表する予定である。 これまでの研究活動を通じて、ミツバチの各脳領野が関連する社会性行動(採餌飛行や熱殺蜂球形成)が同定され、かつ、それぞれの脳領野選択的に発現する遺伝子の取得に成功してきた。従って、脳領野選択的に発現する遺伝子を用いた社会性行動発現の分子・神経基盤を探る研究は、その基礎段階を終えつつある。今年度はミツバチに外来遺伝子を効率良く導入・発現させる実験系を構築するため、種々のウイルスを利用した外来遺伝子導入法についても検討する予定である。
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