研究概要 |
フタホシコオロギ、タンボコオロギおよびマダラシミを用いて、オプシン類を中心に概日時計の光リセット機構に関連した解析を行い、以下の結果を得た。 1)各オプシン遺伝子2本鎖RNAの当該遺伝子へのノックダウンは、他のオプシン遺伝子発現へ影響しないことが明らかになった。2)各オプシンの2本鎖RNAを投与した個体の複眼の波長感度を、ERGの振幅を指標として測定したところ、op-UV RNAiでは短波長領域が、op-Blue RNAiでは480~500nm付近の、op-LW RNAiでは540nm付近のピークが消失することから、それぞれ400nm、480nm, 540nm付近に波長感度のピークを持つと推定された。3)タンボコオロギでオプシンcDNAをクローニングし、フタホシコオロギ同様にop-UV, op-Blue, op-LWの3種を得た。これらの発現部位を検討したところ、フタホシコオロギ同様に、op-LWが複眼背縁部を除くほぼ全域で、op-UVが腹側部の一部を除く全域で、op-Blueは複眼背縁部と腹側の一部で発現することが示された。4)光によるリセット機構を解析するため、フタホシコオロギで必要な時計遺伝子Clkとcycの解析を進めた。これらの発現リズムを解析し、Clkには周期性が無くcycに周期性があるが、cycのノックダウンではClkも周期的発現を示すことなどを明らかにした。5)光リセットの機構を暗黒下で自由継続させたコオロギ1齢および3齢幼虫に異なる時刻で一度だけ光照射を行い、per, tim, Clk, cry2などの時計関連遺伝子の光による発現量変化の時刻依存性をqPCRにより解析した。主観的夜の前半および後半での光照射により、per, tim, cry2の発現リズムがそれぞれ後退、前進するが、変位の時間経過は遺伝子により異なるらしいことがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
オプシン類の抗体を作成し発現解析をタンパクレベルで行う計画であったが、競合するドイツのグループが発現細胞に関する報告を行ったため、この計画を中断し、機能解析を進めることとした。その他については当初の研究計画に沿って進める予定である。特に複眼オプシン系およびクリプトクロム(cry)により仲介される概日時計の光リセット機構を分子レベルで明らかにするため、以下の計画を進める。 1)フタホシコオロギ(Gryllus bimaculatus)を用いて、opsin-UV, opsin-Blue, opsin-LWの個々のオプシンを個別に、あるいは組み合わせてRNAiによりノックダウンし、時計遺伝子の発現リズムを、行動リズムを指標とした光リセットを解析し、オプシン類の光リセットに関する機能を解析する。 2)光パルスに応答する時計遺伝子を明らかにし、その応答特性から、オプシン類に依存した時計のリセット機構の解析を進める。このため、さらに未取得の時計関連遺伝子vrille, Pdp1, E75, HR3などのクローニング、発現解析およびRNAiによるその機能解析を併せて進める。 3)オプシン以外の光受容分子としてcryの機能解析もオプシン類と同様の手法により進める。 4)概日時計のタンパクレベルでのリセット機構の可能性を追求するため、時計タンパク質に対する抗体作成を試みる。良い抗体が得られれば、そのタンパクレベルでの日周発現リズム、それへの光照射の影響をウエスタンブロットにより解析する。
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