研究課題
ヒトを含む全ての動物の免疫活性は、感染・非感染性を問わず様々なストレスにより大きな影響を受ける。感覚的にも、私達は(軽微な)適度のストレスによって免疫活性は上昇し、強度のストレスによって逆に低下することを知っている。しかしながら、特に、非感染性ストレスと免疫活性の関係は必ずしも解析が進んでいるとは言い難い。また、昆虫のToll受容体、そして、ヒトのToll様受容体の発見以降の一連の活発な研究によって、今や、自然免疫系が獲得免疫系の活性化に不可欠な存在であることは周知の事実となっている。本研究では、獲得免疫を持たず自然免疫で生体防御を行う昆虫を対象に解析を進めることによって、非感染性のストレスと自然免疫活性との関係を分子レベルで明らかにする。本研究では、20年前に申請者が穀物害虫であるアワヨトウ蛾幼虫から発見した昆虫サイトカインGrowth-blocking peptide (GBP)に焦点を絞る。GBPは前駆体タンパク質として合成され、比較的高濃度、アワヨトウ幼虫の血液中に存在することが確認されている。本年度、私達はショウウジョウバエを用い、このGBP前駆体がアワヨトウ幼虫同様に血中に存在し、高温や低温の温度ストレスによって活性化することによって活性型GBP濃度が上昇することを明らかにした。さらに、濃度上昇した活性型GBPは、昆虫自然免疫活性の指標と言える抗菌タンパク質遺伝子(特に、Mechinikowin遺伝子)の発現を上昇させることを証明した。病原菌の侵入による自然免疫活性化機構に関してはショウジョウバエにおいて膨大な報告があるものの、異物侵入を伴わない非感染性ストレスによる免疫活性上昇の報告はほとんどない。従って、本年度の研究成果は、極めて新規性の高い発見と言える。
2: おおむね順調に進展している
ショウジョウバエ幼虫血中においてもアワヨトウ同様に、昆虫サイトカインGrowth-blocking peptide (GBP)が前駆体で存在し、高温や低温と言った温度ストレスによって濃度上昇することを明らかにした。さらに、濃度上昇した活性型GBPは、昆虫自然免疫活性の指標と言える抗菌タンパク質遺伝子(特に、Mechinikowin遺伝子)の発現を上昇させることを証明できた。
これまでの予備実験によって、proGBPは血清中に比較的高濃度存在しており、そのC末端側にコードされるGBPペプチド領域がストレス条件下でプロテアーゼによって切断されて活性型GBPへとプロセシングされること、さらに、この反応には特異的セリン型プロテアーゼが関与することを確認済みである。このセリン型プロテアーゼの一刻も早い単離、構造決定が今後の研究の主な目標となる。構造決定出来次第、その遺伝子をクローニングし、活性化機構に関する種々の実験を遂行する。
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Scientific Reports
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http://extwww.cc.saga-u.ac.jp/~hayakayo/FRAME/index.html