研究課題
Growth-blocking peptide (GBP)は自然免疫活性調節を担う昆虫サイトカイン である。本研究では、GBPの非感染ストレス条件下での活性化機構と細胞内情報伝達経路の解析を遂行してきた。昨年度までの解析によって、アワヨウトウ幼虫血清中に高濃度存在している前駆体proGBPはストレス依存的に活性化する特異的セリン型プロテアーゼによって活性型GBPへプロセシングされること、このプロテアーゼ活性化には血球由来の液性因子が関与していることが明らかになった。昨年度はこの活性化因子の精製を試みた。単離したアワヨトウ幼虫血球を3分間培養し、その培地をSP SepharoseとHeparin 5PWの2段階のカラムクロマトグラフィーによって精製した。その結果、ほぼ単一のピークとして活性分画を得るに至ったが、SDS-PAGE後の銀染色によって、5本のタンパク質バンドを確認した。したがって、一次構造を決定する為には精製度を高める必要がある。さらに、昨年度はGBPの細胞内情報伝達経路の解析を行った。免疫担当細胞の一種である血球へのGBPの作用解析の結果、新たな知見が得られた。血球は、抗菌ペプチドを主なエフェクター分子として利用する体液性免疫、及び、貪食や包囲化といった細胞性免疫作用によって異物に対する生体防御活性を示す。GBPは両免疫作用を活性化することは確認済みであったが、両者の活性化機構はもちろん両作用の相互関係についても全く不明の状況にあった。私達は、GBPによる個々の血球の免疫作用の活性化は、体液性免疫、細胞性免疫のどちらか一方しか誘起しないことを発見した。すなわち、体液性免疫系が活性化している血球では細胞性免疫は活性化せず.逆に、細胞性免疫が活性化した細胞では体液性免疫活性は見られない。今後、このGBPによる血球極性の変化を誘起する細胞内情報伝達経路の解析を進める。
2: おおむね順調に進展している
非感染ストレスによる昆虫自然免疫活性化には、活性型のサイトカインGBPが必須である。従来の研究から、アワヨウトウ幼虫血清中には比較的高濃度のGBP前駆体(proGBP)が存在しており、このプロセシングがストレス依存的自然免疫活性化に重要であることは示唆されていた。しかし、そのGBPプロセシングの分子機構については不明のままであった。昨年度、proGBPはストレス依存的に活性化する特異的セリン型プロテアーゼによって活性型GBPへプロセシングされること、さらに、このプロテアーゼ活性化には血球由来の液性因子が関与していることを明らかにし、2段階のカラムクロマトグラフィーによる部分精製に成功した。残念ながら完全精製には至らなかったが、一次構造決定まであと一歩の段階まで研究を進展できたことは意味深い。GBPの細胞内情報伝達経路の解析において、GBPは血球の体液性免疫、細胞性免疫の両活性化に関与しているものの、GBPによる個々の血球の免疫作用の活性化は、体液性免疫、細胞性免疫いずれか一方しか誘起しないことを発見した。すなわち、GBPによる血球の免疫作用活性化は、体液性免疫が活発な血球では貪食や包囲化は起こらず.逆に、貪食や包囲化を行っている細胞では体液性免疫活性は見られない。血球免疫作用の極性の変化を誘起するGBPの生理機能は極めて新規性の高い知見であり、今後、その細胞内情報伝達経路の解析は大きな意義がある。
以下の2つの研究を進める。(1)GBP前駆体(proGBP)はストレス依存的に活性化する特異的セリン型プロテアーゼによって活性化するので、その活性化機構を明確にする。その為、昨年度、発見したセリン型プロテアーゼの活性化因子の精製と一次構造決定を最優先して遂行する。まず、アワヨトウ幼虫血球の培養液を大量に調製し、活性化因子を硫安塩析によって濃縮した後、HiTrap Heparin HPカラムによって活性分画を単離する。得られた活性分画の精製を陽イオン交換カラム(polyCAT Aカラム)とアフィニティーカラム(TSK Heparin 5PWカラム)を用いるHPLCによって遂行する。得られた活性分画の電気泳動後、銀染色で3本以内のタンパク質バンドの場合には、全てについてLC-MS/MSによるペプチドde novoシークエンシングを行う。得られたアミノ酸配列を基に、cDNAを単離、バクテリアによる発現タンパク質調製の手順で活性因子の同定を試みる。(2)さらに、GBP細胞内情報伝達経路についても解析を進める。昨年度までの研究成果によって、血球免疫作用の極性の変化を誘起するGBPの生理機能が明確に証明されたが、今年度はこの作用メカニズムの詳細を明らかにする。そのため、まずは、血球の初期発生や形態変化・動態の変化への関与が報告されているExtracellular signal-reguated kinase (ERK)活性へのGBPの影響の評価から分析を進める。血球(あるいは血球様培養細胞S2 cells)にGBPを作用させた場合、GBPによる活性化あるいは不活性化が検出されたならば、その上流へと遡る。こうした解析手法によって、血球活性極性転換を調節するGBP細胞内情報伝達経路を明らかにする。
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