研究概要 |
本研究では,ショウジョウバエのメスの性行動と脳内インスリン分泌細胞(IPCs)で発現するCa2+透過性TRPチャネル(Pain) に注目し,メス性行動の脳制御機構の解明を目指した。RNA干渉法によるIPCs特異的なPain発現抑制,IPCsの破壊,およびIPCsからの神経分泌の抑制はいずれも性的受容性を上昇させることを見出した。これらの結果から,PainがIPCsからの神経分泌を制御している可能性が考えられた。 IPCsから分泌され,かつ,メスの性的受容性を制御する神経ペプチドや神経伝達物質を同定するため,GABA,アセチルコリン,SIFamide,インスリン様ペプチド[Insulin like peptides (Ilps)],の発現抑制実験を行った。その結果,Ilpsの発現抑制によりメスの性的受容性が上昇することを見出した。ショウジョウバエにおいて,IPCsから分泌されるIlpsは3種類存在し (Ilp2, Ilp3, Ilp5),それぞれが異なる遺伝子によってコードされている。そこで,Ilp2, Ilp3, Ilp5それぞれの遺伝子をノックアウト (KO)した変異体を用いて性的受容性を測定したところ,すべての変異体メスで性的受容性の上昇が確認された。また,pain変異体では,Ilp2およびIlp5の発現量が野生型よりも30%程度減少していることを定量RT-PCRにより確認した。ショウジョウバエのインスリンシグナルを抑制すると発生遅延,細胞のサイズや体重の減少が知られている。pain変異体では発生遅延は認められないものの体重の減少が確認された。以上の結果を踏まえると,pain変異体ではIlp2およびIlp5の遺伝子発現量が減少するとともにIPCsからのインスリン様ペプチドの分泌も抑制され,その結果メスの性的受容性が上昇すると考えられた。
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