研究課題
標的種のうち苔虫動物Cauloramphus magnusでは2地点・55標本を追加し、306標本のCOI配列を決定した。これらの配列を用いて系統地理的解析を行った結果、北日本のC. magnus集団は3つの系統を含み、それらの間には12-28%という比較的大きな遺伝距離が検出された。動吻動物では、遺伝構造の異なるEchinoderes sensibilisとE. ezoensisの2種が確認され、それぞれ津軽海峡を境界に、本州と北海道を中心に分布することを、新種記載とともに論文として投稿した。等脚類は、Idotea ochotensisが3地点・98標本を、Cleantiella isopusでは2地点・100標本追加した。COI配列はそれぞれ335標本、175標本について決定した。I. ochotensisではITS配列についても116標本より決定を行った。その結果、I. ochotensisでは、オホーツク海沿岸での多様度が最も高く、それぞれの地域で複雑に分化しており、氷期における集団サイズの拡大が示唆された。C. isopusでは最終氷期後にその分布を広げたことが示唆された。石灰藻類Corallina piluliferaは合計634標本採集し、COI配列とITS2配列を決定した。対象とした集団には大きく分けて5つの形態とは一致しない遺伝的に分化した集団が確認され、これらの集団は地理的にその分布に偏りがあった。蔓脚類Chthamalus challengeri及びC. dalli(17地点887標本)に関しては、COI配列をそれぞれ360標本、164標本について決定し、ITS配列ではそれぞれ152標本、81標本について決定した。C. challengeriでは北日本全体に一様な集団を形成していた。C. dalliは比較的遺伝的な多様度が低く、その分布域も限定的であった。線虫類のAdoncholaimus daikokuensis では採集された1273標本のうち、440個体のCOI配列と165個体のITS配列を決定した。集団サイズの拡大が示唆され、特に噴火湾沿岸にて遺伝的に多様な集団が存在していた。
1: 当初の計画以上に進展している
昨年度までに対象とした12種では、すでに7000個体を超える標本を採集しており、昨年度から追加した種のために多少の追加採集は行うとしても、必要十分な標本が得られている。また解析の状況としては、当初計画の3600塩基配列の決定がすでに達成されており、対象種すべてでほぼ配列決定を完了した。これにより、分散能力が低い直達発生種では、地史的に比較的新しい北海道に侵入し、その集団サイズを拡大してきたことが、複数の種において示唆されている。従って、傾注した労力は標的種によって異なるが、5カ年計画の少なくとも90%は完了したと考えている。
一部の種については採集と配列決定を継続するが、ほぼ必要な配列決定がなされたので、本年度は投稿論文作成に集中する。解析および論文作成に関しては個人の研究テーマとして進めることが最も生産的な方法であり、現在対象種9つを担当する学生・PDがいることから、大きく解析、論文作成が進展するものと期待される。
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