研究課題/領域番号 |
23370043
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 鉄美 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (70432359)
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研究分担者 |
曽田 貞滋 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00192625)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 多型 / タンガニイカ湖 / シクリッド / RAD解析 / 国際研究者交流 / ザンビア共和国 |
研究概要 |
アフリカのタンガニイカ湖に生息するシクリッド科魚類キプリクロミス属の3種では、集団内にオスの色彩二型が存在する。本研究は、この色彩二型の遺伝的基盤を明らかにし、さらに二型の維持機構を解明することを目的とする。 本年度(H24年度)は、色彩二型の遺伝的基盤を明らかにすることに成功し、成果を論文として出版した(Takahashi et al. Mol. Ecol. Online First)。方法は2段階で行った。まず第一段階目は、飼育個体のF2世代を使った連鎖解析である。遺伝子マーカーにはRAD法によって大量のSNPsを探索し、遺伝子型の決定を行った。その結果、第21連鎖群に色彩二型と関係する遺伝子座があることが明らかとなった。第二段階目は、野生個体を用いた関連分析である。これにより、色彩二型が1遺伝子座2アリルのメンデル遺伝に従うこと、そして遺伝子が第21連鎖群の一部、160 kbp程度の領域に含まれることが強く示唆された。 また、本研究では当初、オスの色彩二型が異型交配によって維持されているという仮説を立てた。この仮説が正しければ、色彩二型遺伝子においてハーディーワインベルグ平衡からの逸脱が見られるはずである。しかし、平衡からの逸脱は見られなかった。このため、この仮説が誤っているか、正しくても影響は小さいと考えられた。以上のことから、タンガニイカ湖の環境を考慮した新しい仮説を立て、コンピューターによるシミュレーションを行った。その結果、まだ未発表の段階なので詳細は述べられないが、二型が維持されるという結果を得ることができた。なおこの新仮説では、異系交配では答えることの出来なかった「なぜ全ての種や集団で二型なのか」といった疑問にも答えることが出来る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究前半の最大の目標である色彩二型の遺伝的基盤の解明を行うことが出来た。このため、ここまでは計画通り進んでいる。しかし同時に、当初の仮説が誤っていたことが判明した。このため、新たな仮説を提唱し、検証を行う予定である(詳細は「今後の研究の推進方策」を参照)。
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今後の研究の推進方策 |
当初は、キプリクロミスのオス色彩二型が「異型交配」によって維持されていると仮説を立て、その検証を行う予定だった。しかし、色彩二型の遺伝基盤を明らかにしたことにより、この異型交配仮説が誤っていることが判明した(ハーディーワインベルグ平衡からの逸脱が見られなかった)。このため、新たな仮説を考えた。この新仮説ではタンガニイカ湖の環境の変化を考慮している。まだアイディアの段階なので詳細を述べることは避けるが、コンピューターを用いたシミュレーションでは、このメカニズムで二型が維持されることが示された。この新仮説では異型交配仮説とは異なり、「なぜ全ての種や集団で二型が維持されるのか? なぜ3型や4型にはならないのか?」といった疑問にも答えることが出来る。この新仮説はこれまで知られている多型維持機構(多様化選択、頻度依存選択、異型交配)とは異なり、新規性がある。この新仮説を検証するには、現地における採集と分子実験による解析が不可欠である。最終年度であるH25年度には、この調査・実験を行う予定である。なお、現地における採集と分子実験は「異型交配」の検証にも必要だったもので、当初から計画に含まれていたものである。よって、実質的な予定の変更(申請額の変更など)は必要ないと考える。 また、これまでの研究により、色彩二型を支配する遺伝子を9つ程度まで絞り込むことが出来た。このうちのどの遺伝子が色彩2型と関係があるのかも調べたい。そのため、色彩二型を示す近縁種と、示さない近縁種について該当の遺伝子の塩基配列を比較する。エクソンだけでなくイントロンも含めて網羅的に調べることが望ましく、そうすると1個体当たり180 kbp程度の配列を決定する必要がある。このため、従来のサンガー法では実現するのが難しい。よって、次世代シーケンサーを用いたアンプリコンシーケンスができたらと考えている。
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