研究概要 |
コケ植物セン類の原始的と考えられる分類群(ナンジャモンジャゴケ綱,クロゴケ綱,ミズゴケ綱)に関して,昨年度からの解析を継続し,葉緑体ゲノム配列の詳細な解析,アノテーション作業を行った。ナンジャモンジャゴケの葉緑体ゲノム中の,タイ類やツノゴケ類の葉緑体ゲノムと共通の遺伝子(ccsA,cysA,cysT,rps16,trnP-GGG)は,セン類の種の大部分を占めるマゴケ綱では,葉緑体ゲノム中に存在しないか,偽遺伝子化していた。ただし,ccsAとtrnP-GGG遺伝子は,オオミズゴケ葉緑体ゲノムにも存在し,rps16とtrnP-GGG遺伝子はガッサンクロゴケ葉緑体ゲノムにも存在した。セン類の種の大半を占めるマゴケ類内部の系統関係を明らかにするため,イシヅチゴケ(イシヅチゴケ綱),ヨツバゴケ(ヨツバゴケ綱),アカイチイゴケ(マゴケ綱ハイゴケ目)の生鮮試料を確保し,解析を進めた。イシヅチゴケに関しては,葉緑体全ゲノムのドラフト配列を得て,ギャップの再シーケンス,遺伝子のアノテーション作業を進めた。イジヅチゴケの葉緑体ゲノム中にも上記の6つの遺伝子の相同配列が存在していたが,cysA,cysT遺伝子は偽遺伝子化していた。また,セン類の中でミズゴケ綱の葉緑体ゲノム中にしか知られていなかったtufA遺伝子の配列を確認した。葉緑体ゲノム構造の比較はセン類の中でナンジャモンジャゴケ綱が最初に分岐し,次いでミズゴケ綱,クロゴケ綱,イシヅチゴケ綱,マゴケ綱の順に分岐したという仮説を支持した.偽遺伝子化やRNA編集の状態について明らかにするためcDNAの配列を解析をすすめた。 葉緑体ゲノムの解析と平行して,オオミズゴケ葉緑体ゲノム1分子の形態解析を行い,個々のゲノムの形を蛍光顕微鏡下で観察した。2量体,3量体に相当する分子の存在を確認し,高等植物でや藻類で知られる,多量体葉緑体ゲノム分子がコケ植物にも存在することを初めて明らかにした。 研究成果は6件の学会発表として公表した(国際植物学会議で3件,国内学会で3件)。
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今後の研究の推進方策 |
従来,次世代型シーケンサーの解析の終了を待ってから,リードが得られなかったり精度が悪いギャップ領域を,通常のシーケンスで読み直すという作業工程だったが,シーケンス結果の納品を待つための時間と,通常のシーケンスで読み直す手間があった。作業工程を見直し,それぞれのサンプルに対しリード長の異なる2種類の次世代シーケンサーのデータを取得することで,互いにデータを相補し,研究の省力化を図りたい。
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