研究課題
本研究は、X線解析で決定した酵素反応中間体構造に基づいた反応機構の解明を目的とする。研究対象にはピリドキサル3リン酸(PLP)を補酵素に持つ赤痢アメーバのメチオニンγリアーゼ1(EhMGL1)やEhMGL2、Pseudomonas putida由来メチオニンγリアーゼ(PpMGL)、好熱菌由来シスタチオニンγシンターゼ(CGS)とともに、アメリカトリパノソーマ由来アスパラギン酸トランスカルバモイラーゼ(TcATCase)を取り上げた。中間体結晶は、酵素結晶を基質含有溶液にソーキングして酵素反応を結晶内で開始させ、次に液体窒素温度で凍結して反応を停止させるまでの時間を変えることで、酵素反応の様々な段階をトラップすることができた。EhMGL1については、Michaelis 複合体以外に6種類の中間体構造を決定した。それらの構造を詳細に検討することで、一つの中間体から次の中間体に変化して行く様子が明らかになり、反応初期段階では従来から提案されている反応機構が妥当であることが実証できた。しかし、最終段階のメタンチオールが脱離する機構については、従来の予想を超える新規反応機構を明らかにできた。一方、他のPLP酵素についても高分解能でX線解析できる結晶の調製が終了し、PpMGLについてはミカエリス複合体と酵素反応でできる最初の中間体、methionine-pyridoxal-5'-phosphateとの複合体構造を決定ができた。さらに、カルバモイルリン酸(CP)とアスパラギン酸(Asp)をそれぞれ第一、第二基質としてカルバモイルアスパラギン酸合成反応を触媒するTcATCaseについては、リガンドフリー体の構造に加えて、TcATCase-CP、TcATCase-CP-Asp、TcATCase-PALA、TcATCase-カルバモイルアスパラギン酸の5つの複合体構造を決定できた。
2: おおむね順調に進展している
EhMGL1については、Michaelis 複合体と6種類の中間体構造を検討することで、酵素反応機構を立体構造に基づいて解明することができた。本研究で取り上げているPLP酵素以外にも多くの類縁酵素があり、アミノ酸配列にも高い相同性が見られる。従って、EhMGL1について得られた知見は、PLP酵素一般について酵素反応に関わっているアミノ酸残基の役割等、構造機能相関を理解する上で有用である。一方、PpMGL等については、全ての中間体構造の決定には至っていないが着実に進んでいる。しかし、中間体を結晶内でトラップするために、ソーキングを低温で行ったり、pHを至適pHからずらす等の工夫を行う必要がある。一方、TcATCaseについても、全ての酵素反応中間体構造を決定することができた。CPとAspの2種類の化合物を基質とするこの酵素は、CPの結合に続いてAspが結合するという定序機構で進行することが知られているが、本研究によってCPの結合がもたらすTcATCaseの構造変化がAspの結合に必要であることが実際の構造として示された。
本研究課題では、これまでの研究成果を踏まえ、EhMGL1、PpMGLとCGSについても全ての酵素反応中間体構造の決定を目指して酵素反応中間体結晶の調製とX線解析を進める。それによって、PLP酵素の構造機能相関に関してより普遍的な知見を得ることを目指す。また、本研究で培われた酵素反応中間体結晶の調製法について、他の酵素にも適用可能になるよう技術開発を行う。
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