研究概要 |
糖鎖は,アレルギー反応やウィルス・細菌感染等に深く関与している。本研究の目的は,糖鎖と糖鎖結合タンパク質との複合体のX線結晶解析を行うことにより,糖鎖結合タンパク質による糖鎖認識機構を分子レベルで解明することである。 1.ガレクチン・糖鎖複合体のX線結晶解析:細胞接着活性を持つガレクチン8と糖鎖との複合体のX線結晶解析に成功した。ガレクチン8は,異なる2つの糖鎖結合ドメイシが30アミノ酸程度のリンカーでつながれた構造をしており,極めて不安定である。今回,リンカー部分を短くした変異型ガレクチン8を用いた。本成果は,異なる2つの糖鎖結合ドメインを持つガレクチンの初めてのX線結晶解析である。その結果,2つの糖鎖結合ドメイン間の基質特異性の違いを立体構造の面から説明できた。さらに,結晶中の分子パッキング構造から,ガレクチン8が様々なタイプの2量体を形成することが示唆された。 2.ウェルシュ菌糖鎖プロセッシング酵素のX線結晶解析:ウェルシュ菌由来N-アセチルグルコサミニダーゼおよびガラクトシダーゼの結晶を得ることに成功した。現在,X線結晶解析に適した結晶化条件を探索中である。ウェルシュ菌由来のタンパク質を研究している中で,ウェルシュ菌よりクローニングされたファージ由来のウェルシュ菌特異的溶菌酵素が見つかった。本酵素も糖鎖結合部位を持ち,ウェルシュ菌の細胞壁を特異的に分解することができる。臨床への応用の可能性が高い酵素でもあるので,本酵素についてもX線結晶解析に着手した。 3.その他の研究成果:ボツリヌス菌由来糖鎖結合タンパク質(ヘマグルチニンコンポーネントの1つ)について,糖鎖複合体のX線結晶解析およびマイクロアレイ解析を行い,α-2-3シアル化糖鎖に高い親和性を持つことを示した。糖鎖内のグリコシド結合の性質を詳細に調べるため,新規オリゴ糖の低分子X線結晶解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行していたガレクチンに関する研究では,すでに学会発表を行っており,論文投稿準備の段階にある。ウェルシュ菌糖鎖プロセッシング酵素に関する研究については,開始して1年あまりであるが,結晶を得ることに成功している。その他の研究成果も上がっており,総じて,「おおむね順調に進展している」と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ガレクチンに関する研究については,順調に進展しているので,今後は,当初の計画通り,糖鎖認識に重要であると予想されるアミノ酸を置換した変異タンパク質を合成し,X線結晶解析・生理活性測定・糖鎖親和性測定を行っていきたい。ウェルシュ菌糖鎖プロセッシング酵素に関する研究については,引き続き,結晶を得る努力を継続するが,状況によっては,糖鎖結合ドメインと触媒ドメインを分けて結晶化することも検討したい。その他の研究課題については,今後,新たな研究の展開を行うためにも,継続していきたい。
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