研究概要 |
1.in vitroでの極長鎖脂肪酸脱水酵素測定に向けて,極長鎖脂肪酸縮合酵素ELOVL7を用いてプロテオリポソーム再構成系の確立を目指した。HEK 293T細胞中で過剰発現させたELOVL7をTriton Xで可溶化後,精製し,ホスファチジルコリンからなるリポソームへ再構成することで,可溶化状態では測定できなかった活性を測定することに成功した。さらにこの系を用いてアシルCoA基質に対するKm,Vmaxを算出した。 2.Elovl1ノックアウトマウスを作成した,生後間もなく死亡するという表現型を明らかにした。このマウスでは皮膚のバリア機能が低下しており,体内からの過度の水分蒸散が死亡の原因であった。Hacd1ノックアウトマウスに関しては最近ホモノックアウトマウスが得られたので,今後解析していく。 3.極長鎖脂肪酸産生が低下した酵母は高温において生育ができない。このことを利用して生育をレスキューするマルチコピーサプレッサーの単離を試み,VPS21遺伝子を同定した。Vps21はRab GTPaseであり,後期エンドソーム/マルチベシキュラーボディ(MVB)を介した小胞輸送において機能する。極長鎖脂肪酸伸長を行なう脂肪酸縮合酵素SUR4遺伝子はVPS21遺伝子を含むいくつかのVPS遺伝子と遺伝学的な相互作用を示した。我々はこれらの解析を通じて,極長鎖脂肪酸が後期エンドソーム/MVBを介した小胞輸送で働くことを明らかにした。極長鎖脂肪酸は長い脂肪酸鎖長により脂質二重層の両層にまたがっており,小胞輸送過程に形成される極率の高い膜構造を安定化する役割があると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
極長鎖脂肪酸伸長サイクルの2段階目を触媒するKAR,3段階目を触媒するHACD1-4についても精製し,今回確立したプロテオリポソームの系を用いて活性測定を行なう。HACD1-4については基質特異性が不明なので,明らかにしていく。Elovl1のノックアウトマウスの皮膚バリア機能の損失に関しては,組織染色,脂質組成解析を行ない,その原因を探る。また,皮膚以外でのElovl1ノックアウトの影響についても解析し,明らかにしていく。概ね順調に進展しており,研究実施計画通りに推進していく予定である。研究の変更点や問題となっている点はない。
|