研究課題/領域番号 |
23370057
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
木原 章雄 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (50333620)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 脂質 / 脂肪酸 / 極長鎖脂肪酸 / 小胞輸送 / 皮膚 / ノックアウトマウス / 生体膜 |
研究概要 |
極長鎖脂肪酸とは炭素数が20よりも大きい脂肪酸のことを指し,生体に多く存在する長鎖脂肪酸では代替できない固有の役割を持つ。極長鎖脂肪酸は4つのステップを1サイクルとする伸長反応を経て,脂肪酸が炭素数2ずつ増加することで産生される。本課題では1段階目の反応を触媒する縮合酵素ELOVL1と3段階目の反応を触媒するHACD1-4の解析を行なった。ELOVL1のノックアウトマウスは出生後,皮膚バリア機能の異常によりすぐに死亡した。このマウスの角質層の脂質ラメラ形成及び顆粒層の層板顆粒の形成は著しく損なわれていた。質量分析器を用いた脂質解析により,皮膚バリアに重要なセラミドの量がノックアウトマウスでは野生型マウスの約半分にまで低下しており,特に炭素数26以上のセラミドが著しく減少していることを明らかにした。これらのことからELOVL1が炭素数26以上の脂肪酸伸長において重要な役割を果たすことが明らかとなった。 脱水酵素HACD1-4の基質特異性の違いについてはこれまで不明であったが,我々はHACD1とHACD2が長鎖から極長鎖飽和脂肪酸に高い活性を示すのに対して,HACD3とHACD4は長鎖飽和脂肪酸に弱い活性を示すものの,極長鎖脂肪酸にはほとんど活性を示さないことを明らかにした。また,HACD1ノックアウトマウスを作成し,筋肉の発達異常,筋力低下,筋繊維の萎縮が見られることを明らかにした。一方で,筋肉における脂質組成に関しては今のところ,野生型とノックアウトマウスで顕著な違いは見られておらず,さらなる解析が必要である。さらにヒトにおいてミオパチー症状を示すHACD1変異遺伝子の遺伝子産物に対する酵素学的な解析を行なった。この変異タンパク質では最後の膜貫通領域が欠けており,活性を持たないことを明らかにした。また,野生型タンパク質では見られない糖鎖修飾を受けていることも見いだした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載の項目については研究実績の概要に示した通り,殆ど全て達成することができた。ただし,ELOVL1の皮膚特異的発現を可能としたトランスジェニックマウスに関しては,受精卵への遺伝子のインジェクションを3回行ったが,最初の2回のインジェクションでは得られなかった。現在,3回目のインジェクションによりマウスが得られているので,ELOVL1の皮膚での発現を確認するところである。
|
今後の研究の推進方策 |
皮膚特異的ELOVL1発現トランスジェニックマウスが得られれば,ELOVL1ノックアウトマウスと掛け合わせることにより,皮膚バリア異常のみをレスキューしたELOVL1ノックアウトマウスが完成する。このマウスの様々な組織を調べることにより,極長鎖脂肪酸の皮膚以外の役割についても明らかにする。HACD1ノックアウトマウスから筋芽細胞を調製し,分化前での脂質組成にHACD1遺伝子欠損がどのように影響を与えるのかを調べ,HACD1の筋分化での役割を明らかにする。
|