研究概要 |
我々は,ガングリオシド系列の生合成における二つの鍵酵素であるGM3合成酵素(GM3S)およびGM2/GD2合成酵素(GM2/GD2S)の各遺伝子改変マウス(K O)を用いてT細胞受容体を介した活性化を検討したところ,GM3S KOではCD4T細胞の機能が重度に障害していたがCD8T細胞は正常であった。対照的に,GM2/GD2S KOではCD4T細胞は正常であったがCD8T細胞は重度に障害していた。この結果は,T細胞サブセットごとにその機能発現に必要なガングリオシド分子種が異なることを示している。従って本研究においては,胸腺におけるT細胞分化過程(レパトア選択)は,T細胞サブセットごとの糖脂質発現の選択過程でもあり,この糖脂質選択は機能的T細胞への成熟に不可欠な現象であること,即ち,Glycolipid Selection is indispensable for Repertoire Selectionという作業仮説を提唱している。さらに、オボアルブミン(OVA)で惹起したマウス喘息モデルにおいて,GM3S KOでは,肺洗浄液中の浸潤細胞(特に好酸球)およびTh2サイトカイン(IL-4,IL-5)の著しい減少が認められ,さらに血清中抗原特異的IgEの出現が抑制され,組織学的にも気道分泌の抑制が確認された。本研究成果は、2012年1月17日付けの米国科学アカデミー紀要PNASに公開された。 現時点において、免疫担当細胞に選択的に作用する薬剤は開発されておらず、非特異的な免疫抑制による重篤な副作用が問題となっている。今後、ガングリオシドが「T細胞」へどのように関わり、制御しているかを解明することにより、より効果的、副作用のない安全な免疫制御剤の開発基盤の確立が期待される。
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