研究課題
「ダイニン」は,ATP加水分解で得られたエネルギーを利用して微小管上を滑り運動する巨大なモーター蛋白質複合体である.私たちの細胞内では,細胞内物質輸送,細胞分裂,細胞移動,鞭毛・繊毛運動などの生命活動の基盤となる様々な細胞運動を駆動している.しかし,ダイニン自身がどのような分子メカニズムで動いているのかという根本的な問いについては,半世紀近い研究にもかかわらず,多くの未解決問題が残されており,その解明は生物物理学・細胞生物学分野の重要な研究課題のひとつである.本研究では,ダイニンの機能面での解析を進めるとともに,構造面での研究を強力に推進することで,その運動メカニズムの全貌を明らかにすることが最終目標である.特に,X線構造解析を中心とした構造生物学的アプローチによりダイニン分子の構造を原子分解能 (3.5Å分解能) で決定し,運動メカニズムの構造的基盤を明らかにすることを重点目標としている.本年度の研究では,ダイニンの心臓部であるモータードメインについて,2.8Å分解能での結晶構造解析を完了し,長年にわたり待ち望まれてきたアミノ酸残基レベルで運動メカニズムを議論することが可能な原子モデルを得ることに遂に成功した.この研究成果は,Nature 誌に掲載され,Nature Structural & Molecular Biology誌のNews & Viewsに取り上げられるなど一定の評価を得た.また,ダイニン分子の力を生み出す構造変化を明らかにするためにクライオ電子顕微鏡像解析を行い,力発生前・後の二つの反応中間状態の低分解能三次元構造情報を得ることにも成功した.
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題では,ダイニンモータードメインの原子構造を決定することが第一目標であった.本年度の研究により,ADP結合状態のダイニンモータードメインについて2.8 Å分解能での結晶構造解析を行うことに成功し,この目標を遂に達成したため,上記評価とした.
本研究における今後の重要課題は次の2点である.(1)ダイニンモータードメインのATP加水分解サイクル過程に伴う構造変化をX線構造解析で捉える(2)微小管に結合したダイニンの構造をクライオ電子顕微鏡像再構成法で捉える本年度の研究により決定したダイニンモータードメインの原子構造を基盤として,次年度の研究では上記課題達成を目指す.
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 3件) 備考 (2件)
Structure
巻: 20 ページ: 1670-1680
Nature
巻: 484 ページ: 345-350
10.1038/nature10955
http://www.protein.osaka-u.ac.jp/jpn/achievement/papers/the-28-a-crystal-structure-of.php
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2012/120308