研究課題/領域番号 |
23370075
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
須藤 和夫 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20111453)
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キーワード | モータータンパク質 / ダイニン / 1分子力学計測 / X線結晶構造解析 |
研究概要 |
本研究の目的は,微小管上でATPを加水分解しながらすべり運動するダイニンの力発生機構を分子レベルで明らかにするすることである.そのために必要なのは,1)ダイニンの構造を詳細に知ることと,2)ATP加水分解にともなうダイニン分子構造の動きと力発生をつなげる実験系を確立することである.これまで継続してきた380kDa ダイニン・モータードメイン(以下ダイニンと呼ぶ)のX線結晶構造解析の最終段階にあった本年度,ついに高分解能のダイニン構造を得ることができ,最初のハードルを越えた.いったん高分解能結晶構造が得られれば,ダイニンのATP加水分解に伴うリンカースイングを顕微鏡下で可視化し,リンカースイング=パワーストロークという「リンカースイング・モデル」の可否を検証するためのダイニン変異体構築を自在におこなうことが可能となる.ダイニンの詳細な構造から,ダイニンATP加水分解はAAA+リングで進行し,リンカーはリングを横切るような棒状構造で,ATP加水分解に伴い,ヒンジ部分で折れ曲がると考えられる.一方,C末端側にある機能不明領域はちょうどリンカーとは反対面に位置しており,ダイニンリングをスライドガラスに固定するのに適当な部分である.本年度は,このような構造情報を基礎に,リンカースイングを実時間で可視化するために最適なダイニン変異体設計をおこない,遺伝子構築を完了した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダイニンはその巨大なサイズ(モータードメインだけで380kDa)ゆえに詳細な立体構造が不明だったため,これまで変異体を用いた機能解析でできることが限られていた.しかし,ダイニン・モータードメインの高分解能X線結晶構造が得られた結果,精密な変異体設計ができるようになった.本研究でも,「リンカースイングがダイニンの力発生に直接かかわっているか?」という問題に直接迫る実験系構築が,無駄な試行錯誤を経ずに可能となった.具体的には,ダイニンの機能を損なうことなく,αらせんの束でできた棒状のリンカードメインの先端部に2か所のビオチン・タグ挿入部位を設計した.ここには,顕微鏡下でリンカースイングを直視するためのストレプトアビジン・ビーズを固定する.さらにダイニンをNi-NTAを介してスライドガラス上で固定するための3個あるいは4個のHisタグ挿入部位を設計した.スライドガラス面に固定されたダイニンのリンカーがATP加水分解に伴って自由に動けるように,結晶構造に基づいて,ビオチン・タグとHisタグの相対位置を設計した.これまでに,このように複数のタグを挿入した長大なダイニン変異体遺伝子設計,構築が終わった.
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今後の研究の推進方策 |
今後,この変異ダイニンを発現させ,これを用いてリンカースイングを顕微鏡下で直視する実験にとりかかる.具体的には,スライドガラス表面にNi-NTAを結合させ,そこに計測用変異ダイニンをまく.変異ダイニンは4個のHisタグを介してガラス表面に結合する.このとき,リンカーが結合しているAAA+リング面とは逆の面でダイニンはガラス表面に結合するように変異を設計してある.次に,ビオチン・タグを介してストレプトアビジン・ビーズをリンカー末端に結合させると,ATP加水分解に伴いリンカーはガラス表面に邪魔されずに自由に動くことが期待できる.ADPあるいはAMPPNP存在下では細長い棒状リンカーは全長にわたって真っ直ぐに伸びているが,ATP存在下あるいはADP/Vi存在下では途中で大きく折れ曲がることが電子顕微鏡解析からわかっている.こうしたリンカーの折れ曲がり(リンカースイング)が,ビーズの動きとして実時間で可視化できるかどうかは,1)ダイニンAAA+リングがしっかりとスライドガラス面に固定されているかどうか,2)リンカーに計測用ビーズがしっかり固定されているかどうか,そして3)計測用ビーズがガラス表面に邪魔されずに自由に動けるかどうかにかかっている.現在の計測用ダイニンの設計では,結晶構造情報を基礎に,こうした問題点に十分に配慮してある.しかし,現実には実験段階でいくつかの点を改良した変異体を作成する必要が生じよう.変異ダイニン遺伝子の構築段階で,長大な遺伝子(20kb)は5つのブロックに分けており,変異体の更なる改変が素早くできるようになっている.最初の変異体での予備実験を通じて,問題点の解決は新たな変異ダイニンの設計で対応できる.
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