研究課題/領域番号 |
23370075
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
須藤 和夫 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20111453)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | モータータンパク質 / ダイニン / 1分子力学計測 / パワーストローク / X線結晶解析 |
研究概要 |
昨年度はダイニン・モータードメインの高分解能結晶構造を得ることができたので,ダイニンの力発生の分子機構を解明すべく,結晶構造に基づき変異ダイニンの遺伝子設計・構築をおこなった.本年度は,1分子計測の実験系の立ち上げに入った.まず,これまでのダイニン発現・精製法を簡素化・改良し,計測サンプルを手早く発現・精製して新鮮なダイニンが常に得られるようにした.1分子計測用変異ダイニンでは,3個あるいは4個のHisタグをリング片面に位置するC端ドメインに挿入した.また,ビーズ固定用Flagタグをリンカー先端2か所に挿入した.さらにバルク系でリンカースイングを定量的に評価するため,GFP-BFP・FRET用にリングとリンカーにそれぞれBFPとGFPを挿入した.これら多数のタグの挿入が,ダイニンのATP加水分解活性やATP加水分解依存的リンカースイングに影響を与えないことをバルク解析で確認した.1分子レベルでATP加水分解依存的リンカー・スイングを実時間で可視化するには,1回のATP加水分解サイクル中に,パワーストローク前状態とパワーストローク後状態にある時間がほぼ等しいことが望ましい.そこで,多分子系でのGFP-BFP・FRET計測を用い,ATP濃度を変えたり,ATP拮抗阻害剤であるAMPPNPを添加するなどして,ATP加水分解反応の定常状態における両状態の比を検討した.その結果,100uM ATP+30uM AMPPNP存在下で,定常状態においてパワーストローク前状態とパワーストローク後状態がほぼ等量ずつ存在することがわかった.この条件下で,1分子のダイニン・リンカーを観察すると,リンカーは,ほぼ1秒ごとに両状態の間を行き来することが期待される.次年度は,この結果に基づき,実際にビーズ回転計測系を用いて,リンカースイングの可視化実験をおこなう.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダイニン・モータードメインの高分解能結晶構造解析の成功で,ダイニン原子モデルに基づいて1分子計測に必要な変異ダイニンを設計することが可能となったことは,本研究にとっては大きな展開であった.その結果,昨年度までに必要な変異ダイニンの設計・構築まで進み,本年度は1分子計用変異ダイニンの発現系・精製系の確立から,ビーズ回転観察を基にした1分子計測のために必要な溶液条件の検討に入った.我々のこれまでの生化学手データからATP濃度を1uM程度まで下げないとほとんどのダイニンがストローク前状態に入ってしまい,ATP依存的リンカースイングを可視化できないことがわかっていた.しかし,クレアチンキナーゼ・クレアチンリン酸を用いたATP再生系で実効ATP濃度を下げようとすると,ダイニンのATP加水分解部位にクレアチンリン酸が入り込んでしまうことがわかり,ATP濃度を直接1 uMまで下げることはできないことがあきらかとなった.そこで,ATPの拮抗阻害剤であるAMPPNPを添加することに方針変更し,リンカースイングを1分子レベルで可視化するのに適当な溶液条件(100uM ATP + 30uM AMPPNP)を探し出すことができた.ここがクリアできれば,顕微鏡下でビーズ回転によりリンカースイングを可視化するという最終実験に移行できるので,ほぼ本年度の目的は達したといえる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果を踏まえて,今後は(1)1分子計測用のために変異ダイニンをガラス表面に固定する方法の検討,(2)ビーズをダイニンリンカーに固定する方法の検討,(3)ATP+AMPPNP存在下でダイニンに固定されたビーズ回転の観察を行う予定である.本研究では,観察されるビーズ回転が本当にリンカースイングを反映しているかどうかを,回転運動するビーズひとつひとつについて確認することが重要である.このためには,回転観察用のATP+AMPPNPをふくむチェンバー内溶液をAMPPNPのみをふくむ溶液で還流するなどの工夫が必要である.バックグラウンドにリンカースイングに依存しないビーズ・ブラウン運動が多数見える可能性もあるので,場合によってはブラウン運動を抑えるような(ビーズとダイニン間の結合を強くするような)変異体を再設計する必要があるかもしれない.
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