本年度は,ダイニンリンカースイングの1分子計測に入った.まず,ダイニンC末端領域に挿入した4個のHisタグを介して,抗Hisタグ抗体を敷き詰めたガラス表面にダイニンリングの片面を固定した.その後,固定されたリング面と反対側に突き出ているリンカー先端に,2個のFlagタグとビオチン化抗Flag抗体を介してストレプトアビジンビーズ(230nm)を固定した.この状態で,ATP加水分解反応に従い,リンカーはリング上面で90度ほど回転することが期待される.昨年度の予備実験で得られたデータに基づき,100uM ATP+ 30uM AMPPNP存在下で,ダイニンリンカー先端のビーズの動きを光学顕微鏡下,実時間で観察した.本実験条件下では,ほぼ1秒ほどの時間間隔でリンカーはパワーストローク前状態とパワーストローク後状態を行き来し,90度ほど回転することが期待される.ATP+AMPPNP存在下でこうした挙動をするビーズは総ビーズ数の0.1%以下であった.これがランダムなブラウン運動ではなく,ATP加水分解依存的リンカースイングに対応するかどうかを確認する必要がある.そのため,チェンバー中の溶液を100uM AMPPNPに素早く置き換えて,チャンバー中のすべてのダイニンをパワーストローク後状態にした.ATP+AMPPNP中で90度ほどの回転運動をするビーズそれぞれについて,溶液がAMPPNPに置き換えられた瞬間に動きが止まるかどうかひとつずつ確認していった.現在までに数十個のビーズについてこの確認が終わった段階であるが,残念ながら,今までのところ回転が即時に停止するものはなかった.これらビーズはリンカーの動きとは独立にブラウン運動で動いているようである.今後は,リンカー上のビオチン数を増やすなどして,ビーズとリンカーの結合を強化することが,本実験の成功の鍵となると考えられる.
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