研究課題
Tra2β蛋白質は、前頭側頭型痴呆症などに関連するRNA結合タンパク質である。Tra2β蛋白質は、人とともにショウジョウバエなどの真核生物にも見られる普遍的なスプライシング制御因子であるが、アミノ酸の類似が高いにも関わらず、結合配列としてGAAGAA配列とUCAA配列の異なった結合配列が報告されている。昨年度にわれわれは、GAAGAA結合配列との複合体解析をさらに進め投稿論文として発表した。本年度はさらに、UCAA配列との相互作用解析を継続し、この配列をループ部分にもつステムーループ構造のRNA分子では、ステム部分がRNA結合ドメインのβループと相互作用することにより、位置が固定され、UCAA配列を認識していることが構造からも明らかになった。これにより、ひとつの蛋白質が、状況によって異なる配列を認識する構造上のメカニズムを明らかにすることができた。また、本年は、スプライシング基本因子であるU2 snRNPの構成成分であるSF3b49について、ほかの構成要素との相互作用解析を行った。SF3b49は、ふたつのRNAけつごうドメインをもっているが、このうちRRM1がSF3bのほかの因子との相互作用に直接関与していることが明らかになった。さらに、siRNAの生成に関与し細胞内のRNAのプロセシングに関与するRNA helicaseAについて、その2本鎖RNA結合ドメインの構造決定を行い、他のタイプのドメインと比較を行い、Proteins, Biomol NMR Assignに投稿した。これにより、このRNA結合ドメインによるRNA認識様式について明らかにすることができた。
2: おおむね順調に進展している
スプライシング反応の制御には、多くのスプライシング制御因子が関わっている。現在まで、われわれのグループでは、CUG-BP1, Tra2b. Sxlなど重要な制御因子とRNAとの複合体の解明に成功してきた。また、これらの事例から、スプライシング因子による配列選択の特異性と柔軟性についての知見を多く得ることができている。この点で、制御因子によるRNA認識のメカニズムの解明の点では、研究当初の目的を果たしていると考えている。また、基本因子の構築原理の解明では、U2 snRNPの分子内の相互作用については、地道な研究によって知見を蓄積することができていると考えているが、現在まで、全体の構造解析にはいたっておらず、今後、力をいれて進めるべき点であると考えている。
スプライシング反応の制御では、複数の因子が働くことによって正確なスプライシング反応を惹起することが多く、これらの因子間の相互作用が重大な課題となっている。今後は、このような制御因子間の相互作用解明も進めていく。また、基本因子についても、構成要素間の相互作用や構築原理を明らかにすることは、非常に重要な目的であり、今後も地道な解析を進めていく必要がある。現在まで、国際的にもU2 snRNPについては解析が進んであらず、難易度の高い構造解析対象であるが、創薬ターゲットにもなりえるので十分に進めていきたい。
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巻: PMID:23558684 ページ: PMID:23558684
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10.1007/s12104-012-9380-3.