研究課題/領域番号 |
23370085
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 裕教 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (50303847)
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キーワード | 細胞・組織 / シグナル伝達 / 癌 / 脳・神経 |
研究概要 |
本年度は次の2点について成果があげられた。1点目は研究実施計画1)に記載した、乳がん細胞の浸潤性に重要なEGFシグナルとEphA2-Ephexin4シグナルの相互作用の解析に関する研究において、EphA2-Ephexin4シグナルが、EGFなどの増殖因子からの刺激を受けることで、がん細胞の持つアノイキス耐性能の獲得に重要な役割を担っていることを新たに見いだした。上皮細胞は、細胞外マトリックス(ECM)に接着することで、細胞の増殖、生存が可能であり、正常な上皮細胞がECMとの接着を喪失すると、アノイキスと呼ばれるプログラム細胞死を引き起こすことが知られている。一方で、上皮組織由来のがん細胞は、アノイキースに対する耐性能を獲得しており、アノイキス耐性能はがん細胞が原発巣から他の組織へと転移していく過程で必要不可欠な機能であると考えられている。このアノイキス耐性能を誘導するシグナル伝達において、EphA2-Ephexin4を介したRhoGの活性化、さらにはその下流においてPI3キナーゼAkt経路の活性化が重要な役割を担っていることを明らかにした。この研究成果は、RhoG活性化因子Ephexin4の新たな機能の解明につながったのみなちず、がん細胞の転移に関わる分子基盤の解明に大きく貢献することが考えられる。2点目の成果は、研究実施計画3)に記載した、セマフォリン受容体Plexinによる細胞運動の制御機構の解析に関する研究において、セマフォリン受容体Plexin-D1の結合パートナーであるRnd2が、その標的分子の1つRapostlinを介して海馬神経細胞の樹状突起スパインの発達を制御していることを新たに見いだした。樹状突起シナプス後部構造体スパインは、樹状突起から突出した小さな突起状の構造体であり、シナプス後部においてほとんどの興奮性シナプス入力を受け取る。スパインは、ニューロンの発達やシナプス活動に応じて、形態を可塑的に変化させることが知られ、Rapostlinは膜輸送機構を介してスパインの発達制御に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、細胞の運動性に関わるシグナル伝達経路において中心的な役割を担っているRhoファミリーの低分子量G蛋白質とその関連分子群に着目し、エフリンを中心とした誘導因子やEGFなどの成長因子、あるいは細胞外マトリックスなど、細胞の運動性を変化させる様々な細胞外からの刺激に対応するシグナル伝達経路を詳細に検討し、それらの相互作用を統合的に理解することで、種々の細胞の運動性を決定する分子機構を解明することを目的としている。このことをふまえて本年度は、エフリン受容体によるがん細胞の転移に関わるRhoファミリーを介したシグナル伝達の分子機構を解明したことに加えて、神経細胞における形態変化に関わるRhoファミリーのシグナルについても明らかにできたと判断したため。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究実施計画2)に記載していた、細胞の運動性を制御する新たなRhoファミリーG蛋白質活性制御因子の探索についてば、幾つかの候補分子の組織特異性は調べているものの、機能解析についてはまだ十分とはいえない。そこで、現在絞り込んでいる候補分子に関して、その発現を抑制するsiRNAを作成し、機能解析を早急に進めていく。
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