研究課題
染色体の正確な分配を制御している重要因子としてLats1/2とGAKという中心体キナーゼに着目し、その異常が引き起こす染色体不安定性の分子統御機構について新規な3つのシグナル伝達経路の提唱を基盤として解明することを本研究の目的とする。研究はほぼ計画どおり順調に進み、本年度は以下の研究成果を得た。 1)Aurora-A-Lats1/2-Aurora-B(ALB)経路:Lats1/2の新たなリン酸化標的を同定した。一方、N末端領域が欠損したLats1蛋白質を発現するLats1-ΔNノックアウト(KO)マウスを作製し、これに由来する細胞(MEF)においてDNAマイクロアレイ解析を行ったところ、Lats2の発現が顕著に減少し、そのリン酸化標的であるYapが異常に安定化して核移行することを見出した。このMEFは、中心体の過剰増幅と染色体分配異常、細胞質分裂の異常を引き起こし、この細胞をヌードマウスに皮下注射すると腫瘍を形成した。2)Chk1-Lats2-14-3-3-P-body (CLP) 経路:DNA損傷に応答して活性化したChk1キナーゼがLats2の新たな部位をリン酸化し、活性化したLats2がCdk阻害因子p21をリン酸化してアポトーシスを引き起こす新たな経路を見出した。3)GAK-PP2A-B'γ-Chk2 /CondensinII (GBC) 経路:Cyclin G1、Cyclin G2およびダブルKOマウスがDNAアルキル化剤である発癌剤に対して抵抗性を有していることを見出した。また、放射線照射後のCyclin G2 KOマウス由来のMEFにおいて、DNA修復関連因子であるγH2AXの脱リン酸化が顕著に遅延することを見出した。すなわち、Cyclin G2/PP2A B'γ複合体が放射線照射後のDNA修復の完了に重要な役割を果たしていることを示唆している。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究計画の一つであるALB (Aurora-A‐Lats2‐Lats1‐Aurora-B) 経路の分子メカニズムの解明に繋がる成果としてLats1のノックアウトマウスの作製と解析からLats1/2が染色体不安定性の抑制と腫瘍形成の抑制に重要であることを見出し、学術論文に発表することができた。この研究成果はJ. Cell Sci.誌のIn This Issueにも選択され注目された。また、この他にCLP経路に関する論文のうち1報が現在リバイズ中で、GBC経路に関する論文のうち1報もリバイズ中である。実験は予定以上に順調に進んでいる。
今後も研究計画どおり推進し、ALB経路、CLP経路、GBC経路の詳細な解析を続けていく。より詳細な分子機序を解明するために、質量分析などを活用してLats1/2およびGAKの結合因子あるいはリン酸化標的因子を同定していく。抗がん剤として有望なGAKを標的とする生理活性物質の同定も試みる。
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