研究課題/領域番号 |
23370088
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
稲垣 直之 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 准教授 (20223216)
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キーワード | 脳・神経 / 発生・分化 / 神経科学 / 軸索輸送 / 細胞骨格 / 分子クラッチ / Shootin1 / アクチン線維 |
研究概要 |
本研究は、遅い神経軸索輸送の分子機構の解明を目指す。速い軸索輸送は、微小管上を動くキネシンファミリータンパク質によってなされることが解っているが、遅い軸索輸送(Slow component b)の分子機構は未だ不明である。本研究では、Slow component bがアクチン線維の重合・脱重合とShootin1のクラッチ作用を介して起こることを示唆する応募者らの予備データを基盤として、その分子メカニズムに迫る。 培養海馬神経細胞に、蛍光タンパク質を融合させたアクチンおよびアクチン結合タンパク質であるCortactinを発現させ、タイムラプス観察を行ったところ、それらがWaveと呼ばれるアクチン線維に富む構造体に濃縮して移動する様子が観察された。次に、Shootin1のRNAiを行なってタイムラプス観察と細胞内一分子計測を行い、Shootin1の発現が抑制された神経細胞におけるWaveの移動速度及びWave内のアクチン線維の逆行性流動速度を計測した。その結果、Shootin1の発現が抑制された神経細胞においては、Waveの移動速度が遅くなり、Waveの速度とは反対にWave内のアクチン線維の逆行性流動速度は速くなっていた。これはShootin1によるアクチン線維の細胞外基質へのつなぎ止めが弱くなりスリップが生じている可能性を示唆している。また、アクチン線維の脱重合を促進するCofilinの恒常活性型を神経細胞に遺伝子導入し、同様にタイムラプス観察及び細胞内一分子計測を行った。その結果、S3A変異体を発現させた神経細胞ではWaveの速度が速くなり、アクチン線維の重合速度も速くなっていた。以上の結果から、Waveによって輸送されるSlow component bがアクチン線維の重合・脱重合とShootin1のクラッチ作用を介して起こることがさらに示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現時点で、「神経軸索輸送Slow component bがアクチン線維の重合・脱重合とShootin1のクラッチ作用を介して起こる」という我々のモデルを支持する実験データが順調に揃ってきているため。また、次年度に予定していた分子クラッチの効率を変化させた場合のアクチン移動速度の解析のデータもすでに一部得られている。
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今後の研究の推進方策 |
クラッチ機構では、前方方向に重合してゆくアクチン繊維の進行を力学的に支えるために、Shootin1とL1-CAMを介して細胞外基質に対して進行方向と反対向きの力がかかると考えられる。そこでこの力を計測する。具体的には、L1-CAMでコートした直径1マイクロmのマイクロビーズをレーザーピンセットで軸索のWave上に静置する。L1-CAMどうしはホモフィリックに結合するので、反作用による細胞膜上のL1-CAMの移動とともにマイクロビーズも移動する。力の計測に成功した場合、サイトカラシンでアクチン線維の重合を抑制してアクチン繊維の進行をストップさせた場合この力が実際に消失するのかを確認する。次に、RNAiでWaveにおけるShootin1やL1-CAMの発現量を抑制して、アクチン線維の細胞外基質へのつなぎ止めを弱めた場合に実際にビーズにかかる力が弱まるのかを調べる。また、逆にShootin1の過剰発現はクラッチによるアクチン線維の細胞外基質へのつなぎ止めを強めると考えられるので、この点も検証する。また、アクチンとShootin1がWaveでクラッチシステムを形成するためには、これらの分子がWave内で十分早い速度で拡散する必要がある。そこで、アクチンとShootin1の拡散速度を定量し、この点を調べる。以上の一連の解析によって、Shootin1がアクチンとともにWave内でクラッチシステムを構成するかが検証できる。
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