研究課題/領域番号 |
23370088
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
稲垣 直之 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 准教授 (20223216)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 発生・分化 / 神経科学 / 軸索輸送 / 細胞骨格 / 分子クラッチ / Shootin1 / アクチン線維 |
研究概要 |
本研究は、遅い神経軸索輸送の分子機構の解明を目指す。速い軸索輸送は、微小管上を動くキネシンファミリータンパク質によってなされることが解っているが、遅い軸索輸送(Slow component b)の分子機構は未だ不明である。本研究では、Slow component bがアクチン線維の重合・脱重合とShootin1のクラッチ作用を介して起こることを示唆する応募者らの予備データを基盤として、その分子メカニズムに迫る。 クラッチ機構では、前方方向に重合してゆくアクチン繊維の進行を力学的に支えるために、Shootin1とL1-CAMを介して細胞外基質に対して進行方向と反対向きの力がかかると考えられる。そこでこの力を定量するために、蛍光ナノビーズを包埋したゲル上に神経細胞を培養し、力によって生じたゲルの歪みをビーズの変異として計測した。その結果、アクチン繊維の進行に伴う方向性を持った力を検出することに成功した。 また、分子クラッチが実際にWaveによるアクチンの輸送を担うのであれば、アクチン線維の細胞外基質へのつなぎ止めを弱めた場合は、Waveによるアクチンの輸送が遅くなり、逆にこのクラッチ効率を促進すればアクチンの輸送が早まるはずである。前年度までの研究により、RNAiでShootin1の発現量を抑制し、アクチン繊維を空回りさせた場合にアクチン輸送が実際に遅ることが確認されている。そこで、にShootin1を過剰発現してクラッチ効率を強めた際のアクチン輸送の速度の変化を調べた。その結果、アクチン輸送の速度が有意に上昇することが明らかとなった。 以上の結果により、Shootin1の分子クラッチがWaveによるアクチンの輸送を担う可能性がさらに高まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点で、「神経軸索輸送Slow component bがアクチン線維の重合・脱重合とShootin1のクラッチ作用を介して起こる」という我々のモデルを支持する実験データが順調に揃ってきているため。また、次年度(最終年度)中に研究成果を学術誌に投稿することが可能と考えられるため。
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今後の研究の推進方策 |
1)アクチン線維の移動を介したアクチン結合タンパク質の軸索輸送の解析: 前述のように、アクチン線維は、アクチン線維結合タンパク質群を輸送する足場として機能し、アクチン線維の移動とともに、数多くのアクチン結合タンパク質も同時に輸送される可能性がある。そこでCortactin、Coronin1B、Ezrin、Fascin等のアクチン結合タンパク質のEGFP融合タンパク質を培養海馬神経細胞に発現させてRFP-actinとともにライブイメージングを行う。その際、前年度の実験で用いた、アクチン線維の細胞外基質へのつなぎ止めを弱める(アクチン繊維を空回りさせた場合)あるいはこのクラッチ効率を増強させる操作を行う。そして、アクチン結合タンパク質の輸送速度がアクチン繊維の移動速度の変化に応じてどのように変化するかを解析することにより、アクチン結合タンパク質群がアクチン繊維と相互作用しつつ輸送される可能性を検証する。 2)数理モデルを用いたアクチン輸送メカニズムの解析: 最後に、以上の実験データを組み入れて、アクチン線維の重合・脱重合とクラッチメカニズムによって起こる軸索輸送の数理モデルを構築する。応募者らはこれまでにアクチン線維の重合・脱重合とShootin1のクラッチメカニズムによって起こる軸索伸長のモデル化に成功しており(Toriyama et al, Mol Sys Biol 2010)、これを基盤としてモデル構築を行う。そして、モデル上で前年度の実験で用いたクラッチの減弱や増強させる操作を行う。予想外の結果が出た場合は、臨機応変にモデルを実験データに合わせて改変しつつモデルの検証を行う。モデルによるシミュレーションで予想されるデータが実験データと一致すれば、アクチン線維の重合・脱重合とShootin1の分子クラッチによるアクチン輸送機構をサポートする重要な根拠となる。
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