研究課題
卵母細胞皮層に特異的に存在することが示された30KDa蛋白質をマス解析し、微小管結合蛋白質p18スタスミンと同定した。抗スタスミン抗体を作製して卵成熟期の動態を調べたところ、減数第一分裂期にリン酸化によりSDS-PAGEの移動度が著しく減少し、そのため消失するようにみえることが明らかとなった。このスタスミンのリン酸化は微小管の安定性を増加すると考えられ、これによって成熟期の卵皮層におけるアクチンフィラメントと微小管の相互作用が調節されている可能性が示唆された。アクチンフィラメントの調節蛋白質、INF2、moesin、cofilinに対する特異抗体を作製し、卵成熟期における動態を調べた。INF2については、卵成熟期にリン酸化されること、また、ツメガエルにはC末が欠損した低分子型(INF2-S)と高分子型(INF2-L)の2つのバリアントが存在し、INF2-Sは卵母細胞および初期胚特異的に発現していること、C末には膜局在に関わるCAAXモチーフが存在するため、それをもつINF2-Lは細胞質に局在するのに対し、INF2-Sは核にも局在し、卵母細胞の核(GV)にも含まれていることが判明した。GVには多量のアクチンが含まれていることが古くから知られており、INF2がその調節に関与していることが予想された。さらに、これらのアクチン調節蛋白質に対する特異抗体を顕微注射した卵母細胞に成熟を誘起すると、いずれの抗体の場合も第一極体形成期に卵皮層の色素顆粒の分布に著しい乱れが生じた。この時期には、受精卵の表面収縮波(SCW)と同様の皮層変化が生ずることから、それに伴う皮層アクチンのリモデリングにINF2、moesin、cofilinが関与していることが示唆された。しかも、3種の抗体注射で生ずる色素分布の乱れ方はパターンが大きく異なっており、各蛋白質の役割が異なることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
卵母細胞特異的に検出される30KDaの移動度を示す皮層蛋白質はp18スタスミンであり、成熟分裂の進行に伴ってリン酸化されて移動度が著しく減少するために見かけ上消失することが判明したことは重要な成果であった。しかし、スタスミンは微小管結合蛋白質であり皮層アクチンの制御に直接関与するものではなく、卵母細胞の皮層に特異的に存在するアクチン調節因子の検索という点で成果が得られたわけではない。一方、アクチン調節蛋白質に対する特異抗体を顕微注射すると、第一極体形成の時期に皮層における色素顆粒の分布に顕著な乱れが生ずることが示されたことは、この時期に皮層のリモデリングが起こることを考え合わせると、卵成熟期の皮層リモデリングにアクチン調節蛋白質が重要な役割を果たしていることを示唆し、非常に興味深い成果といえる。また、抗moesin抗体による色素分布の乱れと抗cofilin抗体によるものとでは明らかに乱れ方が異なっており、両者のアクチン調節における機能の違いを示唆するものといえる。微絨毛の形態や皮層アクチンの配向の観察結果と対応づけることで、卵成熟期における皮層リモデリングの調節機構解明への道を開く成果として期待される。
当初の研究計画に従って研究を推進する。特に、meosinおよびcofilinについては、特異抗体の作用によって極体形成期の皮層に異常が生じることから、この時期の皮層リモデリングにおける役割に焦点を絞って解析する。また、INF2については、卵母細胞および初期胚特異的なバリアント(INF2-S)が卵核胞に含まれることから、その役割について検討を加える。具体的には、特異抗体を核内に輸送する方法(抗体に核輸送シグナルを付加する)により、GV内のINF2の機能を阻害したときの障害について調べる。anillinについては、卵成熟期に蛋白量が増加すること、アンチセンスによりそれが抑制されることが示されているので、anillinの新規合成を阻害したときの減数分裂の進行や、皮層の収縮環様構造の形成能への影響を調べる。さらに、卵母細胞の単離皮層と成熟卵の無細胞系抽出液を組み合わせることにより、アクチン調節蛋白質の皮層局在変化や、リン酸化修飾を無細胞系で再現する系を確立し、卵成熟期の皮層アクチンの調節を部分的にin vitroで誘起することを試みる。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Curr. Biol.
巻: 22 ページ: 915-921
10.1016/j.cub.2012.03.048