本年度は、インビトロ成熟卵の人工媒精法が期せずして確立されたことから、卵成熟期に起こると予想される細胞皮層のリモデリングにおけるアクチン細胞骨格系制御蛋白質アニリンの役割を解析した。特異抗体を用いた定量ウエスタン解析の結果、成熟卵皮層に含まれるアニリンの蛋白質量は未成熟卵母細胞の皮層に比べて2倍に増加していることを申請者は見いだしており、その生理的意義を検討するために、アンチセンスオリゴおよびその抑制作用を受けない改変mRNAの顕微注射によるアニリン蛋白質の新規合成量を定量的に操作する系を確立した。この系を用いて、成熟卵皮層に含まれるアニリン量を量的に変化させたところ、新規合成を完全に抑制すると、減数第1分裂による極体が正常に形成されないことが判明した。この結果は、卵母細胞および受精卵の細胞質分裂には成熟期におけるアニリン量の増加が重要であることを示唆した。そこで、インビトロ成熟卵の人工媒精系を用いて、アニリン量を変化させた成熟卵を媒精し、その卵割の有無を調べた。その結果、極体形成と同様に、アニリン量が増加しなかった卵では、卵割率が有意に減少した。この卵割率の減少は、改変mRNAの顕微注射によるアニリン蛋白質量の増加によって回復したことから、卵成熟期のアニリン蛋白質の量的増加は受精卵の卵割に必須であることが判明した。また、興味深いことに、2細胞期胚の片側割球にアニリンのmRNAを注射してアニリン量を増加させたたところ、この割球に由来する胚細胞の多くが嚢胚期頃までに分裂停止などの異常を示した。これらの結果から、卵成熟期にはアニリンの蛋白質量が倍増し、その量が受精後も適切な量になるように厳密に調節されることが必要なことが判明した。 アニリンが、極体形成や卵割に必須の役割を果たすことは、特異抗体を注射した卵母細胞および受精卵では、極体形成や卵割が抑制されることからも確認された。
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