研究課題
Wntをはじめとする分泌性シグナル因子が様々な発生現象に重要なことは、動物個体を用いた分子遺伝学的解析などにより精力的に示されてきた。ではそこから一歩進んで、器官の発生において、いかにして固有のかたちが形成され、特徴的な領域化のパターンが確立するのかということを理解するためには、それらのプロセスに関わる分泌シグナルの空間分布の制御機構を解明することが重要となる。本研究ではWntタンパク質の空間分布に着目し、(1)感度の高い抗体を用いた内在性Wntタンパク質の生理的条件下での空間分布の観察、(2)ライブイメージング技術によるWntの動的挙動の解析、(3)アフリカツメガエル胞胚上皮系を用いたWntの空間局在を制御する因子の探索、の3点の研究を進めている。平成23年度の研究では以下のような結果が得られた。(1)我々が独自に作製した抗Wnt3a抗体を用いて、マウス胚の脊髄神経管におけるWntタンパク質の局在を再現性よく検出できる条件を確立した。(2)マウス胚を用いたWnt-3aのライブイメージングを行うため、EGFP-Wnt3aをWnt-3a遺伝子座に組み換えたノックインマウスを作製するためのターゲティングコンストラクトを作製した。(3)アフリカツメガエル胞胚上皮系にEGFP-Wntを注入してライブイメージングを行い、Wntの空間動態の観察が可能であることを確認し、長時間安定して観察できる条件を検討した。平成24年度以降は、以上の結果のうち、特にマウス胚組織内におけるWntタンパク質の動態に着目して研究を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度の当初に予定した計画の諸項目の進展状況は以下の通りである。Wnt-3aタンパク質の不均一分布の形成過程の観察については、様々な発生段階にある脊髄神経管において、抗Wnt-3a抗体による免疫組織染色を行い、Wntの空間分布を解析することに成功した。マウス胚内におけるWnt-3aタンパク質のライブイメージング系の確立については、EGFP-Wnt3aをWnt-3a遺伝子座に組み換えたノックインマウスを作成するためのターゲティングコンストラクとに予期せぬ問題が発覚したため、平成24年度に繰り越したが、無事にノックイン可能なコンストラクトの作成に成功した。アフリカツメガエル胞胚上皮系を用いたWnt不均一局在のライブイメージングについては、胞胚上皮系にEGFP-Wntを注入してライブイメージングを行い、Wntの空間動態の観察が可能であることを確認し、長時間安定して観察できる条件を検討した。以上の成果を総合的に判断し、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
これまでの研究成果をふまえ、以下の実験を実施することを計画している。1 Wnt-3aタンパク質の不均一分布の形成過程の観察: 前年度の研究から、後脳から脊髄にかけての背側領域において、Wntタンパク質の不均一な局在が確認された。そこで、様々な発生段階にある野生型マウス胚、およびWntの変異体を含む複数の変異体を用いて、抗Wnt抗体による免疫組織染色を行い、Wntの空間分布の時空間的変化を詳細に解析するとともに、空間分布の規定に関わる要因を検討する。2 マウス胚内におけるWnt-3aタンパク質のライブイメージング系の確立: Wntタンパク質の局在化プロセスを時空間的に解析するために、マウス胚そのものを用いたWnt-3aのライブイメージングを行う。そのために、EGFP-Wnt3aをWnt-3a遺伝子座に組み換えたノックインマウスの作製を行い、脊髄神経管におけるWntタンパク質の動的挙動を解析する。3 アフリカツメガエル胞胚上皮系を用いたWnt不均一局在のライブイメージング: 前年度までの研究から、アフリカツメガエル胞胚上皮細胞で強制発現させたGFP-Wnt3aは細胞の周辺でクラスターを形成してドット状に点在することを見いだした。そこで、このクラスター形成を制御する因子の探索と機能解析を行う。
すべて 2011
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Development
巻: 138 ページ: 339-348
10.1242/dev.054056