研究課題/領域番号 |
23370096
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
田村 浩一郎 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (00254144)
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研究分担者 |
松尾 隆嗣 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (70301223)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 遺伝学 / 遺伝子 / cDNA / 進化 / 環境適応 / 人為選択 / 塩基多様度 / 集団解析 |
研究概要 |
アカショウジョウバエはテングショウジョウバエ亜群に属する近縁種と同様、もともと熱帯、亜熱帯に生息していたが、1980年代後半から本州、四国にも分布を広げ、現在では中部地方でも生息が確認されている。本研究は、アカショウジョウバエの熱帯・亜熱帯から温帯への適応進化の分子機構を解明することを目的としている。平成24年度は、1.次世代シーケンサを用いた網羅的cDNA 解析による低温耐性原因遺伝子の特定と2.アカショウジョウバエ日本集団における遺伝的構成の変化の解析を行った。 ショウジョウバエは交配実験と経代飼育が容易なことから、人為選択法が有効に利用できる。平成23年度(前年度)には、低温耐性が高い台湾の系統に低温耐性が低い東南アジアの系統を6世代戻したBC6系統を得た。戻し交配では、戻し交配系統の雌の中から、低温耐性が弱い系統のほとんどが死亡する1℃16 時間の低温処理で生き残った個体のみを次世代のための親として用い、東南アジア系統の雄を交配した。その結果、台湾系統由来の遺伝子は低温耐性に関与する遺伝子以外は1/64に減少していることが期待される。この系統について、次世代シーケンサを使って各遺伝子の由来を調べた結果、全遺伝子の約半分は低温耐性が高い台湾系統由来であった。この結果は、人為選択は成功していたものの、数多くの遺伝子が低温耐性に関与していたこと、および遺伝子間に強い連鎖があったことを示唆する。 アカショウジョウバエが本州、四国に分布を広げた直後の1980年代後半に本州、四国で採集された集団、および、平成23~24年度に本州、四国で採集された集団、対照群として東南アジアの集団について、低温耐に関与すると考えられる候補遺伝子について、集団内塩基多様度、集団間分化、遺伝子系図。その結果、Pepck、desat2遺伝子に、正の自然選択によって日本に広がったと考えられる傾向が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
戻し交配系統が保持する低温耐性の原因遺伝子を特定するため、次世代シーケンサを用いSNP解析を行ったが、おそらく染色体逆位の影響によって組換えが抑制されたことにより、低温耐性の原因遺伝子に連鎖した低温耐性が高い系統由来の多くの遺伝子が戻し交配系統に残っていることが分かり、低温耐性の原因遺伝子を絞り込むことができなかった。また、アカショウジョウバエが元来生息していた熱帯東南アジア、低温耐性を獲得したと考えられる日本の集団に関して、ゲノムの集団内多様性を次世代シーケンサを用いて網羅的に行う予定であったが、今年度は、一部の候補遺伝子について調べるに留まった。
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今後の研究の推進方策 |
アカショウジョウバエの集団解析については、次年度に次世代シーケンサを用いて網羅的変異解析を行い、集団内塩基多様度、集団間分化、および遺伝子系図の解析によって低温適応にともなって正の選択を受けた遺伝子の探索を行う。また、本年度中に得られた低温耐性の向上に関与していると考えられる候補遺伝子については、タンパク質コード領域の上流についてDNA塩基配列を決定し、DNA塩基配列上の変異と順化による発現量変化の関連を調べ、さらにそれらと低温耐性の向上および呼吸量の上昇との関連を調べることにより、低温耐性への機能的関与を検証する。さらに、キイロショウジョウバエのRNAi、GAL4-UAS系統を用いて発現パターンを変化させ、低温耐性への影響を実験的にも検証する。
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