研究課題
感覚器の起源と進化を明らかにすることを目的に、眼を例にとり比較進化学的な解析を進めた。レンズ眼の起源と進化を理解することは、生物における表現系や形態・機能の多様化を考える上で重要であるばかりでなく、生命における他者の認識にまで至る、高次機能の理解にも関わるものである。神経系が未発達にもかかわらずレンズ眼を有する枝足クラゲや単細胞にも関わらずレンズを有する眼点を持つ渦鞭毛虫を対象として、哺乳類に代表される高度な神経系と連携している眼を比べることにより、遺伝子レベルで、このような複雑な感覚器がどのように出現したかという感覚器の進化と、感覚器からの情報を処理する神経系の進化上の関わりを遺伝子レベルから明らかにすることを目指し、枝足クラゲの眼に発現している遺伝子の探索を目的に、次世代型シークエンサーを用いてRNA-seqを進めた。得られたデータは、次世代型データ解析システムを用いて、アノテーションおよび他生物種との比較解析のために用いられており、現在、データの解析が進行中である。既に得られている、渦鞭毛虫の遺伝子との比較解析を行うとともに、クラゲから得られたオプシン遺伝子の全長決定を行い、いくつかは、従来の報告と異なりフレームシフト変異が生じ、全長が長くなっている事をゲノムレベルで検証した。また、得られたオプシン遺伝子は、共同研究者のもとで、その光需受容特性の検証が進められており、光受容物質としてのクラゲオプシンと視覚器官としてのクラゲ眼の機能的な解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
以下の理由により、予定通りであり良好な達成度であると判断している。材料のクラゲの飼育が安定せずサンプルの収集が予定より遅れていたが、24年度後半には十分量が集められた。利用できる近縁種情報が少ないために、得られたゲノム配列、RNAseqデータの解析に時間をとられているが、別プロジェクトにより開発されたNGSデータ解析システムを用いる事によりこの問題も解決されつつある。渦鞭毛サンプルに関しては、採集の困難はあるものの、過年度より集めていたサンプルが利用できる見込みであり、最終年度に向けて問題なく進められると判断している。これらの困難は当初より想定済みであり、研究を進める上では問題なく、進捗は大筋で計画通りに進んでいると判断している。更に、オプシン遺伝子のフレームシフトや機能解析等、当初予定していなかった範囲まで研究が広がりを見せており、十分な達成度であると考えている。後は成果の公表に向けたとりまとめが最終年度必要と考える。
昨年度に引続き、比較ゲノムによるモデル構築および候補遺伝子の探索 :1.引続き渦べん毛虫、エダアシクラゲの発現遺伝子解析を継続して進める。次世代シークエンサーによるRNAseqの手法を用いることにより、原始的なレンズ眼を有する渦鞭毛虫、エダアシクラゲの遺伝子の網羅的発現解析を行う。2.1における遺伝子発現解析の結果を用いて、眼の発生に関わる遺伝子の配列比較および、発現量の比較を行う為のシステムの構築とデータの整備を進める。その際、既に得られているヒト、マウス、ホヤ、タコなどの種における眼関連遺伝子と比較することにより、レンズ眼成立に関わる遺伝子群の探索とそれぞれの種特異的遺伝子の探索を進める。(参考Ogura et al. 2004)3.原核生物、真核生物および多細胞動物それぞれにおいて異なることが知られている光受容に関わる遺伝子の相同遺伝子を、渦鞭毛虫およびエダアシクラゲで探索する。既に得られている遺伝子以外に、真核型、原核型を示す相同遺伝子に関して発現パターン解析を進める。4.得られた配列は、順次分子系統解析やゲノム比較を行い、遺伝子レベルでの眼特にレンズ形成の進化過程を明らかにする。ゲノム配列を用いた遺伝子比較 : 上記の遺伝子探索に併せて、外群を用い、比較対象種のゲノム配列情報を利用し、上記手法で得られた配列も用いて、個々の種の遺伝子が進化系統上ど段階で生じ、またどの段階で欠失したかを配列比較の手法により推定できる。各系統における眼関連遺伝子の出現時期と進化プロセスの再構築を行う(Ogura et al. 2003, Noda et al. 2004)。遺伝子発現ネットワーク再構築の試み : データマインニングを大規模におこない、PPI,遺伝子発現データなどを利用することによりそれらの遺伝子の機能推定や感覚器官としての眼の成立時期を遺伝子進化の観点から推定する。
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PLoS One.
巻: 8(1) ページ: e54191
10.1371/journal.pone.0054191
巻: 8 ページ: e57122
10.1371/journal.pone.0057122