研究課題/領域番号 |
23370099
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中川 尚史 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70212082)
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研究分担者 |
川本 芳 京都大学, 霊長類研究所, 准教授 (00177750)
半谷 吾郎 京都大学, 霊長類研究所, 准教授 (40444492)
中道 正之 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (60183886)
村山 美穂 京都大学, 野生動物研究センター, 教授 (60293552)
山田 一憲 大阪大学, 人間科学研究科, 講師 (80506999)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ニホンザル / 社会構造 / 個体群間変異 / 遺伝子 / 環境 |
研究実績の概要 |
寛容型であると予測している野生個体群の対象群のひとつ屋久島Umi群にて昨年7月に収集したinfant handling(以下、IH)行動の資料の解析を行い、それを専制的であると予想されている高崎山由来のローマ動物園の既発表データ(Schino et al., 2003)と比較した。その結果、アカンボウが受けるpositive IH(抱擁、毛づくろい、運搬)の頻度は1.4回/時と、高崎山の同齢個体に比べて高かった。他方、IHに対する母親の反応(接近、回収、攻撃)率は、positive IHでは7%、neutral IH(手、鼻、口による接触)では0.9%、negative IH(引っ張る、威嚇、攻撃)では12%と、いずれも高崎山の同齢個体に比べて低かった。以上のことから、屋久島はIHの観点から寛容型マカクの行動形質を併せ持っていることが示唆された。 他方、性格関連遺伝子については、昨年度までに解析済の勝山、幸島、嵐山、淡路島に加え、屋久島、金華山、小豆島についても、攻撃性と関連すると言われているモノアミンオキシターゼA遺伝子(MAOA)とアンドロゲン受容体遺伝子(AR)、養育行動と関連すると言われているオキシトシン受容体遺伝子の解析を行った。その結果、寛容型と予測している屋久島と淡路島に、MAOAの短いアリル、ARの長いアリルがそれぞれ高頻度で見られ、アカゲザルやヒトでこれらのアリルをもつ個体の攻撃性が低いという報告と傾向が一致した。しかし、同じく寛容性が高いと言われている小豆島の遺伝子型にはその特徴は見られなかった。 以上の結果を国内学会で発表するとともに、アカンボウが生まれないため延期していた野生群である金華山でのIHのデータ収集、ならびに遺伝子との結果が一致しなかった餌付け群小豆島において、淡路島と勝山の餌付け群ですでに行っている「8m実験」を予備的に行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
野生個体群である屋久島と金華山については、アカンボウが生れず遅れたが、ようやく最低限予定していた乳母行動のデータについて収集を終えることができた。まもなく解析が終了する予定である。他方、餌付け個体群のうち寛容型と言われていた小豆島個体群において、攻撃性と関連すると言われているモノアミンオキシターゼA遺伝子(MAOA)、ならびにアンドロゲン受容体遺伝子(AR)の頻度から予測される結果と一致しなかったため、「8m実験」(小麦を半径8m以内の円内にまいた際の最大収容個体数を数える実験)を急遽予備的に行ったが、もう一度本格的に行う必要がある。 なお、集団遺伝学上重要な個体群として未解明であった四国の一部個体群については、ほぼその類縁関係の解明に成功し、当初予想しなかった「島内の東西分化」や「他地域からの単系的分化」の特徴が浮かび上がってきた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、野生群において乳母行動の解析を完了させるとともに、餌付け群の小豆島の「8m実験」の本調査を行い、他の実験結果と比較解析を完了させる。そのうえで、全体のとりまとめを行い、11月に開催される日本動物行動学会で一斉に発表する予定である。また、当初予定していなかったが、養育行動と関連すると言われているオキシトシン受容体の遺伝子型と、乳母行動の頻度の関係を個体レベルで調べる予定である。
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