研究課題/領域番号 |
23370103
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
前田 享史 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90301407)
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研究分担者 |
横山 真太郎 北翔大学, 生涯スポーツ学部, 教授 (90002279)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 機能的潜在性 / 寒冷誘発血管拡張反応 / 局所耐寒性 / 血管機能 / 生理的多型性 |
研究概要 |
寒冷誘発血管拡張反応の発現において、皮膚血管調節機構のうち交感神経による神経性の調節が関わっているかどうかについて検討を行った。 成人男性37名を対象に局所寒冷曝露実験及び手指部加速度脈波測定を実施した。局所寒冷曝露実験は、約25℃、約45%RHの人工気候室で10分程度椅座位安静後、右手第2指を約0℃の氷水に第二関節まで30分浸漬し、左手は氷水には浸漬せずにそのまま保持した。指先皮膚温の変化から氷水浸漬中の初期低下度(⊿T)、最低値(Tmin)、最低値発現時間、浸漬中5~30分の平均値、最高値、最低と最高値の差を求め、寒冷誘発血管拡張反応の指標とし、左指の同部位の皮膚温と比較した。その結果、冷水浸漬している右第3指と冷水に浸漬していない左第3指の皮膚温は、降下開始時間はほぼ一致したが、右指皮膚温における寒冷誘発血管拡張反応の発現は左指皮膚温上昇と同期しておこるものと右指の寒冷誘発血管拡張反応発現に先立ち左指の皮膚温の上昇が起こるものが確認された。 また、より詳細に検討するために、成人男性8名を対象に、右手第3指は4℃、左手第3指は32℃の水に浸漬し、左右の指皮膚温および指部血流量を測定した。その結果、上述の結果と同様左右の皮膚血流量上昇が同期しておこるもの、左指が先行して上昇を始めるものが確認された。また、手指部加速度脈波指標のb/aと氷水浸漬中のTminおよび⊿Tとの間にそれぞれ有意な相関が見られた。 以上のことから、氷水浸漬中の初期血管収縮反応には血管の柔軟性が関与していること、また、寒冷誘発血管拡張反応の発現には神経性調節機構によるものとほかの調節機構によるものが関与し、各個人によって寒冷誘発血管拡張反応の発現メカニズムが異なる可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心電図のRR間隔から自律神経機能の変化を示す心拍変動性を解析し、心拍変動と血圧波形から自律神経機能および循環機能を評価することを予定していたが、氷水浸漬開始時および終了時の体動のため手首の橈骨動脈から導出する血圧波形に乱れが生じた結果、血圧波形を用いた自律神経機能および循環機能の評価が困難となった。しかし、CIVD発現への交感神経の関与に関して、左右の同指による皮膚温および皮膚血流の変化から検討することができた。また、このことをさらに発展させ、低温に曝露しない指も32℃という一定温度に曝露することで、環境刺激に対する反応を除外し、純粋に低温曝露指からの低温刺激に起因する対側指の反応をとらえるに至った。 以上のことから、寒冷誘発血管拡張反応の発現メカニズムにおける中枢からの神経性調節の関与について検討するという本年度の研究の達成は、総合的に見ておおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの研究において、寒冷誘発血管拡張反応の発現メカニズムに個人差が存在し、血管内皮由来の血管拡張物質によるもの、交感神経活動減弱によるものの2つの可能性が示された。今後はこの2つの寒冷誘発血管拡張反応のメカニズムについて、刺激条件を変えてより詳細に検討していく。 気温25℃相対湿度50%に設定した人工気候室において、30分以上椅座位安静を保った後、4℃の冷水に右手第2指を、30℃または15℃の水に左手第2指を、それぞれ第二関節まで浸水し30分間保持する。そのときの手指部の皮膚温および皮膚血流量を測定する。また、組織の酸素不足が寒冷誘発血管拡張反応の発現に関与する可能性を検討するために、上腕を軽く圧迫して血流阻害を誘発した状態で低温に指を浸漬した時の皮膚温および皮膚血流量の測定を実施する。 右指の皮膚温および皮膚血流量のデータから各種指標を用いて各被験者の耐寒性を評価する。また、左指の皮膚温・皮膚血流量の変化から寒冷誘発血管拡張反応の発現への交感神経活動の関与を、低圧迫時の各種反応から局所性調節機構の関与を検討する。以上のことについて、得られた結果を取りまとめ学会発表・論文発表を行う。
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