研究概要 |
本研究ではイネにおける雄性不稔細胞質(LD-CMSやCW-CMSなど)と稔性回復遺伝子(Rf2やRf17など)を材料として、ミトコンドリアの雄性不稔原因遺伝子の特定、稔性回復機構,および、ミトコンドリアから核へのレトログレードシグナル伝達経路の解明を行い、ミトコンドリアゲノムの異常から花粉稔性の消失までの全容(雄性不稔発現機構および稔性回復機構)を明らかにすることを目的としている。 1.稔性回復機構の解析:クローニングしたRf2はグリシンリッチプロテインをコードし、他の因子と結合して働くと予想された。RF2に対する抗体を用いてRF複合体を分画して質量分析した結果、189種類のタンパク質が同定され、RNA認識に関与するタンパク質が7種類含まれていた。その中の1つであるGRP162は、Honglian型CMSにおいてatp6-orfH79 RNAに結合することが報告されている(Hu et al 2012)。また、ミトコンドリアに移行してRNAを分解する機能を持つと予測されるエンドリボヌクレアーゼタンパク質 (18.9kD)も含まれていた。以上のことから、これら2つの因子がRF2と相互作用することで atp6-orf79 RNAの分解を行うという稔性回復モデルが考えられた。 2.レトログレードシグナル伝達経路の解明:CW-CMSの稔性回復遺伝子である RF17遺伝子プロモーターはミトコンドリアから核へのレトログレードシグナルを受けて発現が制御されていると考えられる。このプロモーターのシス配列と予想される領域に結合する因子をYeast One Hybrid法により探索したが、得られたクローンの中には転写因子がまれておらず、さらなる解析が必要と考えられた。また、CW-CMSに対する新規稔性回復系統を得て、その原因遺伝子のマッピングのための系統育成を行った。
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