研究課題
本年度は、代謝物とストレス耐性との関係を解析する目的で研究を行った。温度環境因子の影響を考慮するうえで、見逃せないのが金属イオンの効果である。そこで、モデル植物としてルメックス属を材料として、根圏のAlストレス時の成長調査ならびにメタボローム解析を行った。キャピラリー電気泳動-質量分析装置(CE-MS)を用いてアミノ酸、有機酸、リン酸化合物など一次代謝産物を中心とした定量を行い、主成分解析、クラスター解析、相関解析などの多変量解析により代謝物プロファイルを得た。ルメックス属植物は長期にわたってAl3+処理を行ってもバイオマスはほぼ変わらなかった。その一方、Al3+処理後1週間でシュウ酸などの有機酸が葉で増加することが明らかになった。シュウ酸は植物体内に取り込まれたAl3+とキレートを形成し液胞内に封じ込めることでAl3+を無毒化する。そのため、Al処理によりシュウ酸合成が促進されたと考えられる。クエン酸もシュウ酸と同様、Al3+に対してキレート形成が可能であるほか、シュウ酸合成の前駆物質である。本研究により、根圏におけるAl3+ストレスがギシギシ属植物のシュウ酸を初めとする代謝に影響を及ぼすことが明らかとなった。我が国のように、酸性化した土壌が多い地域では、Alが容易にイオン化するため、エゾノギシギシのようにAl3+耐性が高い植物が容易に繁茂出来るような条件であると考えられる。また、エゾノギシギシは田畑など富栄養化した土壌に入り込むとバイオマスを著しく増大させる。牧草地では牛や羊が誤って食べると下痢や尿路結石の原因となり、重篤な場合は死に至る。温暖化と土壌の酸性化とは密接な関係があり本研究の成果は、農業上有益である。以上の研究成果は論文、学会等にて公開した。
2: おおむね順調に進展している
地球温暖化による土壌の酸性化は、根圏のAl3+が植物地上部の代謝物動態にも多大な影響を及ぼすことを明らかにした。このことはルメックス属の持つAl3+耐性を解析するうえで重要な研究成果である。また、ルメックス属の中でもエゾノギシギシに特有の代謝物動態を持つことを示した。ルメックス属植物の中でもエゾノギシギシが酸性土壌の多いわが国において最も繁茂する事実が、代謝物プロファイルの観点から得られた新規の知見である。
今後の研究課題は、温暖化研究の対象として、有害金属イオンの効果についての研究推進である。すなわち、外的アルミニウムの効果が、生体内の様々な代謝物の変動を誘因するため、今後、地球レベルで、温暖化による重要因子として考慮する必要がある。
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