研究課題/領域番号 |
23380017
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山根 久代 京都大学, 農学研究科, 講師 (80335306)
|
研究分担者 |
田尾 龍太郎 京都大学, 農学研究科, 准教授 (10211997)
羽生 剛 京都大学, 農学研究科, 助教 (60335304)
|
キーワード | 休眠 / 低温要求性 / MADS-box / 転写因子 / 温度 / 環境応答 |
研究概要 |
本研究の目的は、温帯果樹の休眠制御機構を解明し、その知見を温帯果樹栽培や育種の効率化に利用することで、気候温暖化に適応しうるサクラ属果樹生産につなげることである。本年度は、我々が着目している休眠関与遺伝子であるDAM6遺伝子の機能解析を進めた。MIKCタイプのMADS-box遺伝子の網羅的発現解析をおこなって、DAM6下流遺伝子としてふさわしい発現挙動を示す遺伝子を探索した。その結果、MIKCタイプのMADS-box遺伝子であるAGAMOUS(AG)遺伝子がDAM6遺伝子の下流ターゲット遺伝子候補として検出された。トランジェントリポーターアッセイより、AG遺伝子のプロモーター領域に対するDAM6タンパク質の結合活性が認められた。よって、DAM6遺伝子はAG遺伝子の転写制御を介してサクラ属果樹の休眠に関与している可能性が示唆された。次に、研究代表者らがこれまでに作出しているウメとポプラにおけるDAM6過剰発現体を用いて休眠形質の機能評価をおこなった。その結果、ポプラ過剰発現体は休眠導入が促進され、かつ頂芽の休眠を維持する機能をもつことがわかった。またウメは本来頂芽を着生しないが、ウメDAM6過剰発現体は頂芽を着生したため、DAM6遺伝子は頂芽着生を促進する機能をもつことが示された。さらに、ウメDAM6発現抑制体は、落葉が阻害され伸長生長が持続したため休眠導入が阻止された。以上より、DAM6遺伝子は頂芽着生を促進し、生長阻害因子として働いていることが示唆された。 研究代表者らはこれまでに、低温要求性の分離したF1集団を250個体以上育成している。22年度の低温要求性調査結果をもとに、低温要求性形質の集団内での分散を反映する48個体を選び出し、約40ローカスのラフマッピングをおこなった。その結果、有効なLOD値をもつQTLは検出されなかった。このことは、F1集団の低温要求性が寄与率の低い複数のQTLによって支配されているか、あるいは個体間の低温要求性の分散が遺伝的要因よりも環境要因によって強く支配されていることを示唆しているものと思われた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目的は、休眠への関与が示唆されるMADS-box遺伝子であるDAM遺伝子の機能を評価することであった。ポプラやウメ形質転換体を用いた解析よりDAM遺伝子が生長抑制因子として機能することが示されたこと、さらに生体内分子機構としては、DAM6タンパクがAG遺伝子の転写を抑制することで休眠を制御していることが明らかとなった。よって、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の目的のひとつは、休眠を評価可能な遺伝子マーカーを作出することである。今年度F1集団を用いたラフマッピングをおこなったが、有効なQTLは検出されなかった。そのため、連鎖マーカー作出までには時間を要する可能性が高い。ただ、これまでにウメの休眠形質の遺伝解析は行われていない。そこで本研究課題では、将来的なウメ休眠性連鎖マーカー作出のための基礎的知見を得るため、ウメ休眠性の遺伝制御機構の解明を主たる目的とすることとした。今後は低温要求性調査を複数年にわたって続け年次相関をみること、さらには圃場での萌芽日調査や、温度要求性調査をおこない、分散分析を試みる予定である。また、研究期間内に、より分散程度が広いF2集団を育成したいと考えている。
|