研究概要 |
ニホンナシ自家不和合性における自他認識反応はS遺伝子座上の雌しべ側と花粉側S遺伝子産物間の相互作用によって起こる.雌しべ側S産物であるS-RNaseは非S特異的に花粉管内に取り込まれる.自己S-RNaseは不和合花粉管のrRNAを分解し,花粉管伸長を停止させる.S-RNase周辺領域には,花粉側S遺伝子候補となるF-boxタンパク質遺伝子(PpSFBB)がクラスター(群)を形成していることから,PpSFBB群が分担して非自己S-RNaseを識別し、ユビキチン化していると推測されている.本年度は,S-RNase周辺領域に座乗するPpSFBB群を掌握するため,S3-RNaseの上流180kbと下流200kbをカバーするBACコンティグとS2-RNase周辺BACコンティグ拡張域の塩基配列を解析し,GENSCANにより遺伝子を予測し,BLASTXを用いたホモロジー検索した.S3-RNase周辺領域は2個のPpSFBB3を含んだS4-RNase周辺と類似したゲノム構造を持ち,S2-RNase周辺領域には新たに2個のPpSFBB2が見出され,少なくとも12個のPpSFBB2が座乗することが明らかになった.一方で、抗S3-RNaseペプチド抗体を用いたイムノブロットにより,柱頭浸出液中にもS-RNaseが含まれることを見出した.受粉直後の花粉の発芽・花粉管伸長を光学顕微鏡観察したところ,不和合花粉の発芽・伸長は和合花粉に比べ遅延していたが,受粉4時間後の花粉管先端部微細構造は和合・不和合間で差異なく,不和合性反応は受粉後4~12時間に起こると推察された.和合受粉した花柱を抗S-RNaseと抗ユビキチン抗体を用いたイムノブロット解析し,非自己S-RNaseのユビキチン化を示す明瞭なバンドを検出することは出来なかった.
|
今後の研究の推進方策 |
PpSFBBをプローブとしたサザンプロット解析でバンドが検出できなくなるまでS-RNase周辺域のBACコンティグを拡張し,新規PpSFBBをクローニングし,S-RNase周辺領域に座乗するPpSFBB群を網羅する.組織学的なアプローチにより自他認識反応および花粉管伸長停止反応の起こるタイミングが明らかにする.非自己S-RNaseのユビキチン化に関しては花粉に耶り込まれたS-RNaseを解析するため,in vitro花粉培養系を,サンプル中のS-RNase以外のタンパク質を除くため免疫沈降法を用いるなど実験方法を検討する.
|