研究概要 |
ニホンナシ自家不和合性における自他認識反応はS遺伝子座上の雌しべ側と花粉側S遺伝子産物間の相互作用によって起こる. 雌しべ側S産物であるS-RNaseは花粉管内に取り込まれた後, 不和合花粉管ではrRNAを分解し, 花粉管伸長を停止させる. 一方, 和合花粉管では, 花粉側S遺伝子候補となるF-boxタンパク質(PpSFBB)群が分担して非自己S-RNaseを識別し, ポリユビキチン化していると考えられている. SにコードされるS-RNase周辺領域に座乗するPpSFBB群を掌握するため, 本年度は染色体歩行によりS2-RNaseのBACコンティグをS2-RNase上流約530kbと下流500kbまで拡張した. S2-RNase上流166kb~280kbに5個の新規PpSFBB2を見出した. PpSFBBをプローブとしたサザンブロット解析の結果, S2-RNase上流280kb~と下流374kb~にはシグナルが検出されないことから, S2-RNase周辺領域には17個のPpSFBB2が座乗することが明らかになった. PpSFBB2群の配列から設計したプライマーセットを用いたRT-PCR法により他のSホモ花粉から5つのPpSFBB2ホモロググループをクローニングした. いずれのホモロググループもハプロタイプ間で90%以上の高い相同性を示した. 受粉3~6時間後の花粉管の内部微細構造は、電子密度が高く, 不明瞭であった. グルタルアルデヒドの代わりにパラホルムアルデヒドを用いて前固定することで明瞭な画像を得ることができた. エンドゾームを可視化できる固定方法を用いた免疫電子顕微鏡観察により, 花粉管先端部におけるS-RNaseの和合・不和合花粉管への取り込みとエンドゾーム中のS-RNaseを観察できた.
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今後の研究の推進方策 |
S4-RNase周辺域のBACコンティグを拡張し, 新規PpSFBB4を探索すると共に, PpSFBB2群配列から設計したプライマーセットを用いたRT-PCRにより他のSホモ花粉からPpSFBB2ホモログをクローニングする. ハプロタイプ間の高い相同性をもつPpSFBBホモログの有無からPpSFBBのS-RNaseに対する認識特性を推測する. 一方, (免疫) 電子顕微鏡観察により, 和合・不和合花粉管先端部おける液胞形成とS-RNaseの挙動を解析する.
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