研究課題
果樹等の耐寒性植物組織がどのように制御しながら凍るか、その詳細は殆ど不明である。その動態や機構を探るため、昨年度開発した赤外線サーモビュアによる凍結過程の可視化法を用いて、ブルーベリー枝の凍結をDifferential Imaging法で詳細に解析した。凍結開始は微弱だが鮮明な発熱で、枝の複数部位から同時に生じ、当初緩慢に伝搬した。枝の皮層部だけを部分的に除く環状除皮した枝を用いると、この凍結開始と伝搬は、環状除皮部位で停止することから、皮層部において凍結開始されると考えられた。この凍結はある時点で木部に伝搬されると、非常に強い発熱で急速に枝全体に広がった。この2回目の凍結は急速に伝播し、環状除皮部位を障害なく通過することから木部の凍結であることが推察された。木部では、導管中の大量の水が一気に凍結するが、自発的に凍るのではなく皮層部から伝搬して凍結するものと考えられた。さらに観察を続けると、凍結していなかった皮層部がパッチ状に木部とは別個にランダムに凍結した。これは非常に微弱な発熱で、皮層部の緩慢な細胞外凍結による発熱と考えられた。これらの結果は従前の枝の凍結開始の定説(木部から凍結開始)とは異なっていた。ブルーベリー枝の凍結を北大低温研の冷凍顕微鏡装置を佐崎氏の協力で解析した。枝の皮層部から氷結晶が析出することが判った。同様の冷却ステージをいくつか試作し、枝切片の凍結開始を観察できるような装置を作成した。また、森総研・黒田氏の協力のもと、Cryo-SEMをもちいた枝の凍結像の解析法も確立した。なぜブルーベリー枝が皮層部から凍結するかその機構を調べるため、試験管法を用いた氷核活性測定を行った。氷核活性は1-2年生枝全般にあり、皮層部に局在した。木部や髄の氷核活性は低かった。これらの結果は、サーモビュア解析から得られた凍結過程と非常によく呼応した。
2: おおむね順調に進展している
ブルーベリー枝の凍結過程解析に、開発した赤外線サーモビュアによる可視化解析法が非常に強力なツールとして機能した。これまでの枝の凍結開始秩序に関する常識とことなった結果を得ることができた(皮層部から凍結開始)。一方、この凍結過程は、枝の各組織の氷核活性のデータと非常によく一致した。これらのことは、枝は外部からの霜や雪等から凍結開始する場合もあるかもしれないが、何もない状態でも自らを凍結させる能力があることを示している。冷凍顕微鏡やCryoSEMによる解析法も確立され、今後の研究展開に利用可能となった。他の植物種組織の凍結過程のサーモビュアによる解析は、季節的に限られることと画像解析に非常に多くの時間を要するため、少し遅れている状況である。
赤外線サーモビュアを利用して、さらに多くの植物種組織の凍結過程の解析を進める。また、これまでのサーモによる凍結可視化解析手法に関して論文発表を進める。MRIを利用した凍結過程可視化解析法についても開発可能か、研究協力者と討議して実現に向かって進める。ブルーベリー枝の氷核活性測定結果や活性測定法についても論文発表を進める。氷核活性も多種の植物種、各組織について測定を進め、凍結様式との関連を明らかにする一方、ブルーベリー枝等の氷核活性物質の同定へむけて、さらなる特性解析を行っていく。
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